ボールペン 歴史

ボールペン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/07/04 15:11 UTC 版)

歴史

1940年にビーロー・ラースローが売り出した"birome"ブランドペン。

ボールペンを発明するにあたっては、ペン先用極小ボールの高精度な加工・固定技術と、高粘度インクの開発が必要であった。従来の低粘度インクでは、ボールの回転と共に多量のインクがにじみ出してしまい、シャープな線を描けなかったのである。

  • 1884年アメリカ人のジョン・ラウドが着想しているが、インク漏れを防止できず実用にならなかった。
  • ユダヤ系ハンガリー人のジャーナリストのビーロー・ラースロー(László Bíró)が毛細管現象を利用した世界初の近代的ボールペンを考案し、1938年にイギリスで特許を取得[13]1941年ナチス・ドイツを逃れてアルゼンチンに移住すると同国で会社を設立し、1943年に同国での特許を取得してBiromeというブランド名で販売[14]イギリス空軍がこのペンのライセンス品(Biro)を採用し、高い高度を飛行中の使用に際してボールペンは万年筆よりも液漏れしにくいことが知られることとなった[14]
  • 1945年にアメリカの企業家であるミルトン・レイノルズ氏 は重力を用いた新しいインクの押し出し技術を考案し、「レイノルズ・ロケット」という新しいボールペンを発売した[15]
  • 1945年にビーローのbiromeペンをエバーシャープ社とレイノルズ社と量産化、戦後のアメリカでブームとなった[14]。また、日本でも米軍により持ち込まれたことで、一部でボールペン・ブームとなった。
  • 1948年セーラー万年筆社が初国産ボールペン「セーラー・ボール・ポイント・ペン」を500本発売。[16]
  • 1949年オート社が世界で初めて実用的な量産ボールペンである鉛筆型ボールペンならびに証券用インクを開発[17]。以降、本格的な日本国内のボールペン・ブームの火付け役となる。
  • インク漏れをほぼ完全に防止でき、安定した製品が市場に出されるのは、1950年代に至ってからである[18]
  • 1950年にフランスのビックが透明軸の「ビック・クリスタル」を発売、1970年代には4色ボールペンを発売した[19][20]。世界規模で量産に成功し、ビックは21世紀の現在に至るまで最大のボールペンメーカーとなっている[14]
  • 1958年オート社がペン先に入れる小さな0.6ミリのボールを開発した[21]。ボールの小型化は世界で初めてである。これによって極細の文字が書けるようになり、他社からも更に小さいボールの商品が開発されるようになった。
  • 1964年オート社が水性ボールペンを世界で初めて開発[17]。以降、各社から多彩な水性ボールペンが発売されることとなる。
  • 1965年にポール・フィッシャーが窒素ガス加圧式のスペースペンを開発。後にNASAにも採用された[22]
  • 1966年ゼブラ社がインク残量が一目で分かるボールペン「ゼブラクリスタル」を発売。
  • 1977年ゼブラ社がシャープペンシルとボールペンを1本にまとめた革新的な商品として開発され、シャーボが発売された。
  • 1982年サクラクレパス社が世界で初めて分散系チキソトロピー現象を応用した水性ゲルインキを開発・特許を取得した。その後国内各社も高性能ゲルインキボールペンの開発に着手、ボールペンの性能は飛躍的に上がり、ボールペンの普及に拍車を掛けた。
  • 2010年ゼブラ社が世界で初めて不可能と言われていた「水性」と「油性」の融合を実現させ、エマルジョンインク(油中水滴型インク)を開発。
  • 2023年7月3日に三菱鉛筆のuni-ball oneシリーズが「最も黒いゲルインクボールペン“Blackest gel ink ball pen”」として、ギネス世界記録™に認定された。独自開発のビーズパック顔料により、当時 一番黒いボールペンインクの開発に成功。

当初は高価で普及せず、書いた後時間が経つとインクが滲むので公文書に用いることも認められなかった。しかし、量産効果と改良で品質改善・低価格化が進み、公文書への使用が可能となった。 徐々に金融機関でも採用されるようになり、1960年代のボールペンの新聞広告では「一流銀行が愛用する」というコピーが使われている[23]1970年代以降は万年筆つけペンに代わる、もっとも一般的な筆記具となっている。

1980年代後半以降、各メーカーはラバーグリップ搭載、ローレット加工搭載やインクの改良、ペン先の改良など様々な形で疲れにくさを追求していった。1990年代半ばになると、多彩なインク色を揃えたボールペンが相次いで発売され、ビジネスだけでなく趣味、学生にも支持が広まる[要出典]


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