ボールペン
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特殊なボールペン
消せるボールペン
1979年にアメリカの文具メーカーPaperMate社が、インク粒子を大きくし紙に染み込まないようにした「イレーザブルインク」による、消しゴムで消せるボールペン「Eraser Mate」を発売し、日本では1980年に三菱鉛筆が「ケルボ」を一時期発売していた。しかし、これは時間が経つと消せなくなるため鉛筆同様の使用はできない[34]。
21世紀になってから鉛筆同様の使い勝手を持つパイロットコーポレーション「D-ink」がヒットし、その後継機種「e-GEL」、三菱「ユニボール シグノ イレイサブル」などが登場した。しかし、消しにくかったり簡単に消えたりしたため定着しなかった[34]。
2006年1月、パイロットがペン後部のゴムでこすることで発する摩擦熱により筆跡を消せるフリクションボールをヨーロッパで先行発売し、2007年には日本でも発売、その利便性から2010年までに全世界で累計約3億本を売り上げた[9]。フリクションはその後も全世界で普及している。
ただ、消せるボールペンには文書の改竄の恐れという問題がある。京都府舞鶴市では消せるボールペンで記入されていた公文書が多数発見され問題となり、日本の自治体の事務などでは使用禁止の動きが進んでいる。メーカーも消せるボールペンによる証書類の記入は控えるよう呼びかけている[35]。なお、消せるボールペンで書いた後で消した文字を低温下で復元させる方法もある[36]。
加圧式ボールペン
通常のボールペンは重力を利用してインクを送り出すため、先端を上に向けた状態では筆記できない。水平より上向きで字を書くとだんだんインクが出なくなり、さらにインクタンク内に空気が入り込むと気泡ができてしまう。インク残量があっても、ボールとそれを支えるホルダーの間に空気が入ってしまうことのほか、紙の繊維などが詰まったり、ペン先が傷ついてボールが回らなくなったり、インクが経年劣化したりしても書けなくなる[37]。
微小重力の宇宙船内などでは、インクを窒素ガスで強制的に送り出す、俗に宇宙ペン(スペースペン)と呼ばれる特殊なボールペンが使われている。ただし、宇宙ではボールペンが全く使えなくなるということはなく、「アメリカ航空宇宙局(NASA)はわざわざ手間暇と大金をかけてスペースペンを開発した。一方、ソ連は鉛筆を使った」というジョークがあるが、鉛筆の芯は静電気を帯びやすい黒鉛を含み、破片や粉塵が機器類に悪影響を与えるおそれがあるため、ソ連の継承国であるロシアも鉛筆をボールペンに置き換えている[38]。
21世紀に入り、日本の文具メーカーによりガス封入ではなくノックすることで軸の内部で圧縮空気を作りインクを送り出す加圧式ボールペンが開発され、各社より販売されている。加圧されているので先端の向きに関わらず書ける他、ペン先から水の入り込む隙間がないため、濡れた紙や氷点下の環境でも書けるのが特徴である。
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