チャン族 宗教

チャン族

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/30 14:29 UTC 版)

宗教

アニミズム

チャン族は古代族の時代から脈々と受け継がれてきた原始宗教である精霊・多神崇拝(アニミズム)を信仰している。彼らの精霊・多神崇拝というのはいわゆるアニミズム的観念であり、全ての人間には霊魂が宿っていて、それが外界の物事に推し及ぼし、あらゆる物,場所に精霊が存在し、行動していると考えた。しかしながら、歴史的に他の外来宗教の流入によってアニミズムにいくらかの影響があり、とくに1月9日の「上元会」、4月8日の「仏祖会」、7月19日の「玉皇会」といった道教の行事が強制されたこともあった。

彼らの宗教は多神教であるため、数多くの神が存在する。その中でも彼らがもっとも崇拝してきたのは「天神(太陽神)」である。天神は万物を主宰し、人間と家畜に禍福を及ぼす神であると考えられた。この天神を主神として山の神,火の神,羊の神,水の神,土地の神と続き、全部で10数種類もの神が存在するが、「万物有霊」の考えから「着物の角」から「体の垢」、「吐息」にいたるまで、ありとあらゆる万物に霊が宿ると信じられている。このように形あるものから形のないものまで崇拝するのであるが、形のない神々に対しては「白石神」といって石英をその神々に見立てて崇拝する。これは彼らの「白石伝説」に基づく考えなのであるが、伝説では強敵の戈基(ガァチィ)人を神の啓示によって倒したチャン族は戦勝を記念して神を祀ろうとしたが、神に形がなかったため、夢(神の啓示)で見た石英を神の象徴として崇めるようになったという。この「白石伝説」はチャン族の儀式で必ずシャーマンによって唱えられ、彼らの神話として語り継がれてきた。

チャン族の宗教で欠かせないのがシャーマン(巫師)である。シャーマンはチャン族の言葉で「(シュイ)」と呼ばれ、生産にも従事している宗教職能者であり、神と通交し、悪魔とも接触するので、人々が祀る神々以外に彼自身の保護神を持っている。彼は民族の歴史や伝説に通じ、さまざまな神話物語と故実の由来などを暗誦しており、各種の記録されていない呪文を唱えることができ、神通力を発揮する法器をもっていた。そのため人々は彼が自然を自在に操る才能を備え、風雨を呼ぶことができ、家畜と作物を繁殖させ、運命の吉凶を変える能力をもっていると信じた。シャーマンはさらに医者でもあり、どのような病気も治療できるとされた。それゆえにシャーマンは長年にわたってチャン族の社会生活で重要な地位を占め、人々の精神上の指導者というべき存在であった。

シャーマンは徒弟制によって養成され、経典がなく、一切の呪文は師匠の口伝にたよる。弟子の数人に制限はなく、伝授は多く夜間に挙行される。その時間は労働後の余暇でもあり、神秘性を添える時間でもあった。その学習は通常3年ないし5年を要するが、全ての呪文を暗誦して使用することができ、一切の儀式を熟知すれば「謝恩儀礼」を挙行して正式に「卒業」が申し渡される。その時になると弟子は師匠を宴会に招き、靴,靴下,衣裳[2]などを謝礼として師匠に贈る。師匠も法器一式を弟子に贈り、弟子が独立することを許可する。

チベット仏教

チベット族に隣接する赤不蘇(チーブゥスー),三江口(サンチヤンコウ),九子屯(チョウツートゥン)などの地方では、チベット族の支配階級が自己の勢力を扶植するにしたがってチャン族の支配階級と結託し、数か所にチベット仏教の寺廟を建て、チャン族の民衆にチベット仏教を信仰するよう奨励督促した。その結果、ある地区ではそれまでのチャン族宗教職能者(シャーマン)が廃絶されてラマ僧に代わり、またある地区ではシャーマンとラマ僧が並立してチャン族の宗教信仰活動上の重要な人物となった。現在でもチベット族の人たちと一緒に暮らしている少数のチャン族の人たちはチベット仏教を信仰している。

キリスト教

1898年フランス宣教師が茂州城に入り、カトリック教会堂を建てる。1909年プロテスタントが茂州に伝わり、つづいて1911年汶川県理県などの地区に伝わり、茂州,威州,薛城,雑谷脳などの地区に教会が建てられた。1942年、「中華基督教会」の「辺疆服務部」が威州に事務所を開設し、その勢力は雑谷脳,薛城,雁門,佳山,通化,茂県などのチャン族,チベット族の雑居地区にまで伸展した。以上のいろいろな外国宗教勢力は学校を作り、医療を行うなどさまざまな恩恵を施して人心を寵絡し、信者になるよう人々を誘導した。さらに「チャン族の信仰する天神はすなわちキリストである」「チャン族と西方の民族とは同種同族である」などといい、キリスト教の影響を拡大しようとした。ただし、実際に外国の宗教を受け入れて信者になるチャン族は極めて少数であり、それも交通が発達し、都市に隣接する地区に限っていた。広範な山村地区では「イエス」というチャン族にとっては耳慣れないものを信奉する者はほとんどいなかったのである。ここにおいてもチャン族のアニミズム信仰の根強さを知ることができる。


  1. ^ zh:中華人民共和国第五次全国人口普查
  2. ^ 許(シュイ)は衣裳として白いスカートをはき、上半身に羊の皮で作ったチョッキ或いは普段着を着る。の皮をひっかけ、頭にサルの皮の帽子をかぶる許もいる。
  3. ^ 代、少数民族地区に間接統治をまかせていた土司,土官を廃止して、流官(中央より任を受けた役人)を派遣して直接統治に切り替えていった政策ならびにその措施。
  4. ^ 子供の誕生前から親同士で婚約を整える一種の幼児間の婚約。
  5. ^ チベット系民族の民間舞踏。


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