シトクロムP450 シトクロムP450の概要

シトクロムP450

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/23 15:18 UTC 版)

Cytochrome P450 Oxidase (CYP2C9)

ゲノムプロジェクトによって一部の細菌を除く大部分の生物大腸菌には見つかっていない)にその遺伝子があることが明らかにされた。例えばヒトには57個の遺伝子がある。また、植物のシトクロムP450は基質特異性が高く、多くの種類が存在するとされている[1]、例えばイネにおいては候補遺伝子が400以上も発見されている。しかし、機能がわかっているものは少ない。

構造

すべてのシトクロムP450は約500アミノ酸残基からなり、活性部位にヘムを持つ。保存されたシステイン残基と分子がヘムの原子にリガンドとして配位する。基質が酵素に結合すると、水がはずれ酸素が結合できるようになる。シトクロムとは以上のような構造的特徴、および反応過程でが酸化・還元を受ける点で類似性があるが、シトクロムは一般に酵素でなく電子伝達タンパク質であって機能が異なる。 一酸化炭素が還元型の酵素の活性部位の鉄原子に結合すると、450ナノメートル(可視光領域)の波長を持つ電磁波に対し吸収極大を示すので、ピグメント(色素)450という意味で大村恒雄と佐藤了により1964年に命名された[2]

分類・命名

シトクロムP450はアミノ酸配列の相同性に基づいて分類され、40%以上相同のものをファミリー、55%以上相同のものをサブファミリーとして分類する。 たとえば「CYP1A1」というように表記し、最初の数字1は「ファミリー1」、Aは「サブファミリーA」、最後の数字1が特定の蛋白質(遺伝子はCYP1A1と斜体で表記する)を示す(別の生物種でも明らかに対応する場合には同じ名にする)。

ヒトの主なCYPの分類
亜群 分子種 主な基質
1 A CYP1A1 ベンゾピレン
CYP1A2 アセトアミノフェンプロプラノロールカフェインテオフィリン
2 A CYP2A6 テガフールニコチン
B CYP2B6 シクロホスファミドケタミン
C CYP2C8 パクリタキセル
CYP2C9 イブプロフェンジクロフェナクフェニトインワルファリン
CYP2C19 ジアゼパムオメプラゾールランソプラゾールクロピドグレル
D CYP2D6 タモキシフェンフルボキサミンハロペリドールプロプラノロールコデイン
E CYP2E1 ハロタンエンフルランアセトアミノフェンアセトンエタノールトルエンベンゼン
3 A CYP3A4 アミオダロンカルバマゼピンエリスロマイシンタクロリムスタモキシフェンパクリタキセルドセタキセル
CYP3A5 テストステロンクラリスロマイシン

機能

異物代謝(解毒作用など)

さまざまなシトクロムP450の基質は脂溶性で、蓄積するとになるものが多い。たとえば、ポリ塩化ビフェニル(PCB)フェノバルビタールをはじめとする薬物、ステロイドなどである。これら基質の多くにはシトクロムP450の発現を誘導する性質もある。シトクロムP450はこれらの分子を水酸化して、排出されやすい水溶性の物質に変える。一方、ベンゾピレンなどの発癌物質では逆にシトクロムP450による水酸化で発癌性が生じることが明らかにされている。

薬物相互作用

カルシウム拮抗剤などでグレープフルーツジュースとの併用により副作用が増強することがある。これはCYP3A4の活性が阻害され薬物の代謝が遅くなるためとされ酵素阻害と呼ばれる。逆にセイヨウオトギリはCYP3A4を誘導し薬物の代謝を速め酵素誘導と呼ばれる。このほかにもシトクロムP450が関係した薬物の相互作用がありうるので注意が必要である。その他、CYP2D6などの遺伝的多型により各種薬物の代謝速度に個人差が現れることが知られている。

コレステロール生合成など

CYP51は現在シトクロムP450の存在が知られるすべての生物種に見つかっており最も基本的な分子種と考えられている。これは多くの生物でステロイド生合成の基本となるステロール14α-脱メチル化酵素活性を有しており、特に真菌では生存に必要なエルゴステロールの合成に関与するため、アゾール系などのシトクロムP450阻害剤が殺菌剤抗真菌薬として用いられる。

動物のステロイドホルモン合成においてもエストロゲン合成に関わるCYP19(アロマターゼ)など重要なものがある。またプロスタサイクリン(プロスタグランジンPGI2)などの合成にも関与するものがある。


  1. ^ 水谷正治、『シトクロムP450の多様性と植物の化学進化』 Regulation of Plant Growth & Development 40(1), 67-82, 2005-05-27, NAID 10015669125
  2. ^ Omura, T.; Sato, R. (1964). “The carbon monoxide-binding pigment of liver microsomes: I. Evidence for its hemoprotein nature”. J. Biol. Chem. 239: 2370-2378. PMID 14209971. http://www.jbc.org/content/239/7/2370.full.pdf. 


「シトクロムP450」の続きの解説一覧



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「シトクロムP450」の関連用語

シトクロムP450のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



シトクロムP450のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのシトクロムP450 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS