RISC形成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/27 15:09 UTC 版)
20~30塩基の小分子ncRNAに関しては共通するエフェクター複合体であるRISCに関して主に述べる。small RNAのうち、siRNAとmiRNAは由来や構造は異なるが、ともに生合成の中間体として二本鎖RNAの状態を経由するため、RISC形成過程には共通点が多い。siRNAはウイルス感染など外因性の長い二本鎖RNAや両方向あるいは逆位反復配列の転写などによる内因性の長い二本鎖RNAを前駆体とし、Dicerとよばれる酵素による切断を受け、siRNA二本鎖として生合成される。一方でmiRNAはpol Ⅱまたはpol Ⅲによって合成された一時転写産物(pri-miRNA)が、核内でDroshaとよばれる酵素による切断を受けて、30塩基程度の二本鎖領域を含むヘアピン型の前駆体miRNA(pre-miRNA)が作られた後、細胞質に輸送され、さらにDicerにループ部分を切り落とされることによりmiRNA/miRNA*二本鎖として生合成される。siRNA二本鎖もmiRNA/miRNA*二本鎖も、ともに21~23塩基程度の二本鎖RNAであり、二本鎖の5’末端にはリン酸基を、3’末端には2塩基程度の突出構造(オーバーハング)をもつ。これに対して、small RNAのエフェクター複合体であるRISCにはArgonaute蛋白質と一本鎖RNAのみが含まれる。したがってsiRNA二本鎖やmiRNA/miRNA*二本鎖がRISCを形成するためには少なくとも「Argonaute蛋白質の小分子RNA二本鎖への積み込み」と「Argoneute中での二本鎖の引き剥がしと片鎖の排出」という2段階の反応が必要になる。このとき排出される方の鎖をパッセンジャー鎖、最終的にRISC中で標的mRNAにかかわる方をガイド鎖とよぶ。 二本鎖RNAのArgonauteへの積み込み siRNA二本鎖あるいはmiRNA/miRNA*二本鎖が二本鎖のままArgonauteに入った状態をpre-RISCとよぶ。Pre-RISCは小分子RNAとArgonauteが自発的に結合することによって作られるわけではなく、Hsc70やHsp90を中心とする分子シャペロンによるATPの加水分解が必要であることが知られている。シャペロンはRNAと結合していないArgonauteの構造を大きく変化させることにより、ArgonauteがsiRNA二本鎖やmiRNA/miRNA*二本鎖を取り込めるような状態を作り出していると考えられている。piRNAのような一本鎖RNAもRISCを形成するがこの機序は十分に明らかになっていない。取り込まれた二本鎖のうちどちらの鎖がガイド鎖でどちらの鎖がパッセンジャー鎖になるかはRNA二本鎖がArgonauteに積み込まれる際の方向によってすでに運命づけられている。ArgonauteのMIDドメインとPIWIドメインの境界面付近には、リン酸基結合ポケットがあり二本鎖RNAがArgonauteに積み込まれる際にはガイド鎖の5’末端のリン酸残基がこのポケットに固定される。Argonauteとガイド鎖のリン酸骨格の間には多くの特異的相互作用が生じることが知られている。一方でパッセンジャー鎖とArgonauteの間に生じる相互作用は極めて少ない。 Argonaute中でのRNA二本鎖の引き剥がしと片鎖の排出 Argonauteに方向性をもって積み込まれたRNA二本鎖は少なくとも2つの異なる様式で一本鎖化され、RISC(mature-RISC)を形成する。RNAを切断する活性をスライサー活性という。ArgonauteのPIWIドメインはRNase H様の構造をもっており、Argonauteの中にはスライサー活性を持つものがある。例えば、ヒトやショウジョウバエのAgo2はスライサー活性をもつが、ショウジョウバエAgo1のスライサー活性は非常に弱く、ヒトのAgo1、Ago2、Ago4はスライサー活性を持たない。スライサー活性をもつヒトやハエのAgo2に、siRNA二本鎖のような完全に相補的な二本鎖RNAが積み込まれるとパッセンジャー鎖の中央が切断される。この切断によってガイド鎖-パッセンジャー鎖間の熱力学的安定性は大幅に低下し、パッセンジャー鎖が排出され、ガイド鎖のみがArgonauteに固定された状態、すなわちRISC(mature-RISC)が生じる。一方でスライサー活性を持たないArgonauteの場合、あるいは天然のmiRNA/miRNA*二本鎖に多く見られるように中央付近にミスマッチを含むようなRNA二本鎖がArgonauteに取り込まれた場合には、パッセンジャー鎖の切断は起こらない。しかしそれでもArgonauteによってゆっくりと二本鎖が引きはがされ、Argonauteにしっかりと固定されていない方の鎖、すなわちパッセンジャー鎖が排出されRISCが形成される。このとき、二本鎖RNAのガイド鎖の5’末端から数えて2 - 7塩基目のseed領域あるいは12~15塩基目の3’supplementary領域にミスマッチがあると引き剥がしの速度は飛躍的に向上する。実際、天然のmiRNA/miRNA*二本鎖は中央部分に加えてこれらの領域にミスマッチを含むことが多く、RISC形成における二本鎖RNAの積み込みとパッセンジャー鎖の排出の両方のステップに適した構造をとっているといえる。
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