熱力学的安定性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 23:11 UTC 版)
タンパク質は、それぞれのアミノ酸配列に固有の立体構造を自発的に形成する。このことから、タンパク質の天然状態は熱力学的な最安定状態(最も自由エネルギーが低い状態)であると考えられている(アンフィンセンのドグマ(英語版))。 タンパク質の立体構造安定性は天然状態と変性状態の自由エネルギーの差 Δ G d {\displaystyle \Delta G_{\rm {d}}} (変性自由エネルギー)で決まる。なお、温度依存性を議論する場合には、安定性の指標として e x p ( − Δ G d / k T ) {\displaystyle exp(-\Delta G_{\rm {d}}/kT)} が用いられることもある。通常、タンパク質の安定性は、温度、圧力、溶媒条件等に依存する。従って、それらの条件をある程度変化させると、タンパク質は変性する。 タンパク質の安定性を決める要因として、ファン・デル・ワールス相互作用、疎水性相互作用、水素結合、イオン結合、鎖エントロピー、ジスルフィド結合などがある。これらの寄与の大きさは、温度等により変わる。 多くのタンパク質は、室温近傍で数十 kJ/mol 程度の Δ G d {\displaystyle \Delta G_{\rm {d}}} をとる。この非常に小さな Δ G d {\displaystyle \Delta G_{\rm {d}}} は変性状態に対して天然状態が絶妙なバランスで安定であることを示しており、この性質は限界安定性 (marginal stability)と呼ばれている。 温度が変化すると、変性エンタルピー Δ H d {\displaystyle \Delta H_{\rm {d}}} や変性エントロピー Δ S d {\displaystyle \Delta S_{\rm {d}}} は急激に変化するが、それらの変化の大部分は相殺して Δ G d {\displaystyle \Delta G_{\rm {d}}} に寄与しない(エンタルピー・エントロピー相殺)。変性熱容量変化 Δ C p , d {\displaystyle \Delta C_{p,{\rm {d}}}} は正の値を持ち、タンパク質内部のアミノ酸残基(疎水性アミノ酸が多い)の水和に伴う水和水の熱容量変化によるものであると考えられている。
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