熱力学的性質
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/02 11:55 UTC 版)
熱力学極限(粒子数 N → ∞ {\displaystyle N\to \infty } の極限)で系の統計分布は一体分布関数で記述できるようになる。この1体分布関数は、粒子密度 ρ = A e β cos θ {\displaystyle \rho =Ae^{\beta \cos \theta }} ( A {\displaystyle A} , B {\displaystyle B} は定数)を導き、 B = 0 {\displaystyle B=0} ならば粒子は一様に分布し、 B ≠ 0 {\displaystyle B\neq 0} ならばクラスターを形成する。定数 B {\displaystyle B} はセルフコンシステント条件 B = J 2 I 1 ( β B ) I 0 ( β B ) {\displaystyle B={\frac {J}{2}}{\frac {I_{1}(\beta B)}{I_{0}(\beta B)}}} ( I n {\displaystyle I_{n}} は修正ベッセル関数)を満足し、これが非自明解 B ≠ 0 {\displaystyle B\neq 0} を持つ条件が T < T c := J 2 {\displaystyle T<T_{c}:={\frac {J}{2}}} と求まる。すなわち、温度 T c {\displaystyle T_{c}} より低温のときにのみ熱平衡状態としてクラスター状態が可能である。そして熱力学的安定性の要求から、低温側ではクラスター状態が安定であり、一方高温側では一様状態が安定であることが結論される。この転移は2次相転移である。 あるいは、この結果は以下の統計力学的な考察に基づいて導出することもできる。一般に長距離相互作用する系ではミクロカノニカルアンサンブルとカノニカルアンサンブルが等価ではなく異なる結果を導く可能性があるが、HMF モデルの場合には両者は等価である。その1粒子あたりの自由エネルギー ϕ ( β ) {\displaystyle \phi (\beta )} ( β {\displaystyle \beta } は逆温度) は、極限 N → ∞ {\displaystyle N\to \infty } に対して ϕ ( β ) = β 2 − 1 2 ln 2 π + 1 2 ln β + inf x ≥ 0 [ β x 2 2 − ln I 0 ( β x ) ] {\displaystyle \phi (\beta )={\frac {\beta }{2}}-{\frac {1}{2}}\ln 2\pi +{\frac {1}{2}}\ln \beta +\inf _{x\geq 0}\left[{\frac {\beta x^{2}}{2}}-\ln I_{0}(\beta x)\right]} と求まる(適当な規格化を施した)。自由エネルギーの極値条件として方程式 x = I 1 ( x ) I 0 ( x ) {\displaystyle x={\frac {I_{1}(x)}{I_{0}(x)}}} が非自明解を持つか、という条件が得られ、上の考察が再現される。短距離相互作用する1次元系では自発的対称性の破れによる相転移が起きないことが保証されており(マーミン・ワグナーの定理(英語版))、この結果は HMF モデルの熱力学的性質において長距離相互作用が本質的であることを示している。
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