CAPMへの批判と新たな資産価格モデルの発展
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/16 04:08 UTC 版)
「資本資産価格モデル」の記事における「CAPMへの批判と新たな資産価格モデルの発展」の解説
実証研究においてCAPMは1970年代前半まではその成立について肯定的な結果が得られていた。しかし1970年代後半からCAPMに対する様々な批判や問題点が提起された。それはCAPMの理論的な問題点に関するStephen Ross(英語版)の指摘や、CAPMについての実証研究が持つ問題点に対するRichard Roll(英語版)の指摘、そしてCAPMでは説明できないアノマリーの発見などである。 Stephen Ross(英語版)はCAPMが成立するための仮定が非常に限定的であるとして、新しい資産価格モデルとして裁定価格理論を提案した。CAPMが成立するためには完全市場の仮定の他に、投資家の選好が平均分散分析と整合的である必要がある。つまり市場に参加している全ての投資家は平均分散分析によりポートフォリオを選択しなくてはならない。しかし、これが成立するための理論的な仮定は、全ての金融資産の収益率の同時分布が正規分布であるか、もしくは全ての投資家の期待効用関数が2次関数の形式を取ることである。それは非現実的であるので、それらの仮定に依拠しない資産価格理論として裁定価格理論を提案したのである。 他方、Richard Roll(英語版)は既存のCAPMについての実証研究が持つ問題点をいくつか提起した。特に有名なものとして、市場ポートフォリオについての批判がある。CAPMは全ての金融資産について成立するものなので、市場ポートフォリオも全ての金融資産の時価総額加重平均ポートフォリオでなくてはならない。しかし既存の実証研究は株式に対するものが主で、市場ポートフォリオも全ての株式に対する時価総額加重平均ポートフォリオが用いられてきた。その意味で株式しか考慮に入っていない市場ポートフォリオを用いた結果の妥当性を判断するのは難しい。よって市場ポートフォリオは株式以外にも債券、不動産、そして人的資本への投資などを含めた時価総額加重平均ポートフォリオであるべきであるという主張になる。 そしてより深刻な指摘としてCAPMでは説明できないアノマリーの存在がある。このようなアノマリーの例として時価総額が小さい株式の方が高い期待リターンを得られるという小型株効果や、簿価時価比率(PBRの逆数)が高い割安株の方が高い期待リターンを得られるというバリュー株効果などがある。 そこでユージン・ファーマとケネス・フレンチ(英語版)は米国株式市場におけるクロスセクション分析を行い、時価総額、簿価時価比率、レバレッジ比率、E/P(PERの逆数)の当時認識されていた4つのアノマリー要因は時価総額と簿価時価比率の2つに集約されることを統計的に実証した論文を1992年に発表した。そしてさらにこの論文中において、時価総額と簿価時価比率でコントロールを行えば、市場ポートフォリオのリスクプレミアムが持つ個別株式のリスクプレミアムへの説明力がほとんど失われることを統計的に実証した。つまりCAPMは、少なくとも米国株式市場においては、成立していないとの結果である。当該論文の発表当時、ユージン・ファーマは効率的市場仮説の確立などで既に学術的に名声を得ており、さらにCAPMを擁護する論文をかつて発表していたことから、この論文は大きなインパクトを持って受け止められた。特にフィッシャー・ブラックはファーマとフレンチの結果に対して懐疑的な視点を示している。しかし、1993年にユージン・ファーマとケネス・フレンチが発表した資産価格モデルであるファーマ=フレンチの3ファクターモデルはポストCAPMとしての地位を確立し、新たなスタンダードモデルとなった。
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