2008年8月1日の日食とは? わかりやすく解説

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2008年8月1日の日食

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/09/12 12:44 UTC 版)

日食 > 2008年8月1日の日食
2008年8月1日の日食
中華人民共和国・クムル市で観測されたコロナとの皆既日食
皆既帯経路
日食の種類
性質 皆既食
ガンマ値 0.83070
食分 1.03942
最大食
持続期間 2分27秒14
所在地 ロシア、ナディム近郊
座標 北緯65度39分12秒 東経72度18分48秒 / 北緯65.65333度 東経72.31333度 / 65.65333; 72.31333
食帯の最大幅 236.9 km
時間 (UTC)
(P1) 部分食始 08:04:05.9
(U1) 皆既食始 09:21:07.0
(U2) 中心食始 09:24:10.0
最大食 10:21:06.7
(U3) 中心食終 11:18:27.6
(U4) 皆既食終 11:21:25.7
(P4) 部分食終 12:38:26.1
参照
サロス周期 126番(全72回の47番目)
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2008年8月1日の日食は、本影地球を横断し、カナダ北部、グリーンランド北極海ロシア中央部、モンゴル、そして中華人民共和国に至る経路を辿った天文現象である。

基本情報

この日食は、太陽の光球全体が完全に月によって隠される皆既日食であり、月が地球と太陽との間に正確に一直線に並び、その本影が地球表面に到達したことで発生した。

この日食は、太陽活動が極めて静穏な極小期の最中に発生したため、太陽コロナの基本的な構造を研究する上で非常に貴重な機会を科学者たちに提供した[1]。また、発生日が2008年北京オリンピックの開会式のわずか1週間前であったことから、特に中国では「オリンピック日食」として国内外から大きな注目を集め、科学観測だけでなく、大規模な国際的観光イベントとしての側面も色濃く見せた。

この天文現象は、現代における日食観測のあり方を象徴するものであった。世界中から数万人の科学者、アマチュア天文家、そして観光客が皆既帯に集結し、その様子はインターネットを通じて全世界に生中継された。これにより、地理的に限られた場所でしか見ることのできない現象が、世界中の人々によって共有されるグローバルな体験となった。古代において日食がしばしば不吉な予兆と見なされていたこととは対照的に、2008年の日食は科学的探究心と国際交流、そして文化的な祝祭が融合したイベントとして、21世紀初頭の天文学史にその名を刻んだ。

皆既帯経路の詳細

この日食における皆既帯は、北極圏から始まり、ユーラシア大陸を横断して終わるという、地理的に非常に変化に富んだ経路を辿った。

カナダ・グリーンランド・スヴァールバル諸島

皆既帯の始点はカナダ北部のヌナブト準州で、現地時間の日の出とともに皆既食が始まった[2]。その後、本影は北東へと進み、グリーンランドの北部を横断した。この地域では、太陽が地平線に沈まない白夜の期間中に皆既日食が発生するという、極めて珍しい光景が繰り広げられた。本影はさらに北極海を進み、ノルウェースヴァールバル諸島に属するクヴィト島の東端をかすめた後、ユーラシア大陸へと到達した。

ロシア

ロシアに入った皆既帯は南東に進路を変え、広大なシベリアの大地を横断した。食の最大を迎えたのはナディム市近郊であった。皆既帯は、ニジネヴァルトフスクノヴォシビルスクバルナウルといったシベリアの主要都市を通過したため、高緯度で発生した日食としては異例なほど、多くの人々が観測しやすい環境にあった。特に、ロシア第3の都市であるノヴォシビルスクは皆既帯の中心線に近く、世界中から観測者が集まる一大拠点となった。

中華人民共和国

シベリアを抜けた本影は、カザフスタンの最東端をわずかにかすめ、モンゴル西部のアルタイ山脈地域を通過した。そして、中華人民共和国新疆ウイグル自治区へと入った。この地域は晴天率が高いという予測から、科学観測隊や多くの日食ツアーにとって主要な目的地とされた。新疆のクムル市甘粛省酒泉市などが観測好適地として賑わいをみせた。皆既帯はさらに中国内陸部を進み、最終的には陝西省西安市の近郊で日没を迎えた。

部分日食

皆既帯の外側では、非常に広範囲で部分日食が観測された。月の半影は、ヨーロッパのほぼ全域(南欧南部を除く)、アラビア半島インド、そしてアジアの大部分を覆った。また、北アメリカの北東部や北極海のほぼ全域でも部分食を見ることができた。日本においては、北海道利尻島礼文島などごく一部の地域でのみ、日没時に太陽がわずかに欠けたまま地平線に沈む日没帯食として観測された。

科学的観測と成果

太陽極小期のコロナ

この日食観測における最大の科学的成果は、太陽活動極小期におけるコロナの詳細な姿を捉えたことにある。

コロナ構造とMHDモデル

ロシアや中国で撮影された高解像度画像は、太陽の赤道付近から長く伸びたヘルメットストリーマと、南北両極から放射状に広がる微細なポーラープルームという、典型的な極小期コロナの構造を鮮明に描き出した。これらの観測結果は、太陽観測衛星SOHOが観測した光球磁場データを基に計算された3次元磁気流体力学(MHD)モデルによる予測と非常によく一致した。これは、太陽の表面磁場構造が外部コロナの形態を決定するという理論の強力な裏付けとなり、現代の太陽物理学におけるシミュレーション技術の精度の高さを示した。

輝線観測とコロナ温度

皆既時にのみ観測可能なコロナの輝線スペクトルは、コロナプラズマの温度や密度を知るための重要な手がかりとなる。特に、高温のプラズマ中で生成される高電離イオンからの輝線が注目された[3]。2006年の皆既日食と比較した研究では、2008年のコロナでは約200万Kのプラズマを示すFe XIV輝線が著しく弱く、より低温(約100万K)のプラズマを示すFe XI輝線が支配的であることが明らかになった[4]

国際的な観測プロジェクト

LTU 1111

現在はエア・ベルリンに買収されているドイツのチャーター航空会社LTU国際航空は、日食の観察のため、デュッセルドルフから北極点まで特別便を運航した。機体番号1111には日食のファン、科学者、ジャーナリスト、テレビ局のカメラマンが搭乗し、11時間飛行した。日食の前にはスヴァールバル諸島、後には磁極の観光ツアーも組まれていた。

ギャラリー

皆既日食

部分日食

関連画像

脚注

参考文献・情報

写真:

ビデオ





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