他者
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他者(たしゃ、英語: other)とは、自分とは別の人間を定義するために使用される用語である。
現象学では、他者と構成的他者という用語は、人の自己のイメージの累積的、構成的要因として、他者を自己から区別する。したがって、他者とは、自己の正反対でもあり、また、似て非なるものでもある[1][2]。構成的他者とは、人間の人格(本質)と身体との間の関係であり、自己のアイデンティティの本質的な特徴と表面的な特徴との関係であり、またそれは個人の内部の差異であるために、自己とは正反対の、しかし相関的な特徴に相当する[3][4]。
また、他者性(他者の特徴)の状態や質は、人の社会的アイデンティティや自己のアイデンティティの差異によって決まる[5]。哲学の言説において、他者性という用語は、物事の象徴的秩序から、実在(真正で不変のもの)から、美学(芸術、美、味など)から、政治哲学から、社会規範や社会的アイデンティティから、そして自己から区別され、分離している他者の「誰」(who)、「何」(what)という特徴を示している。したがって、他者性の条件とは、人が社会の社会規範に不適合であることであり、他者性とは、国家またはそれに対応する社会政治的権力を持つ社会制度(例えば、職業など)によってもたらされる権利剥奪(政治的排除)である。したがって、他者性の押し付けは、「他者」としてレッテルを貼られた人物を社会の中心から疎外させ、他者であるために社会の周縁に位置づけることである[6]。
他者化(othering)という用語は、他者という社会的に従属したカテゴリーに属する者として、ある人物を従属的社会集団の出身者としてラベリングし、定義する還元的な行為を表している。他者化の実践は、自己の姿たる社会集団の規範に適合しない人物を排除するもの[7]であり、同様に人文地理学において他者化の実践とは、他者であることを理由に、社会集団から社会の周縁部、つまり主流の社会規範が適用されない場所に排除し、追いやることを意味する[8]。
背景
哲学
ジョン・スチュアート・ミルは1865年に『An Examination of Sir William Hamilton's Philosophy(ウィリアム・ハミルトン卿の哲学の検討)』の中で、ルネ・デカルト以降の他者に関する最初の定式化である他我の概念を導入した[9]。
自己の概念には、自己を定義するために必要な対となる存在として、構成的他者の存在が必要である。18世紀後半にゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル(1770-1831)は自己意識(自己への偏執)の構成部分として他者の概念を導入し[10]、ヨハン・ゴットリープ・フィヒテ(1762-1814)が提示した自己認識(内省能力)に関する命題を補完した[11]。
エドムント・フッサール(1859-1938)は、他者という概念を間主観性、つまり人々の間の心理的関係の基礎として適用した。『デカルト的省察』(1931) の中で、フッサールは、他者は分身として、もう一人の自己として構成されると述べ、他者は自己の認識論的な問題。つまりは自己の意識の知覚でしかないとした[1]。
ジャン=ポール・サルトル(1905-1980)は、『存在と無』(1943)の中で、間主観性の考え方を応用して、他者の出現によって世界がどのように変化するか、世界が自己ではなく他者に向けられているように見えるかを説明した。他者は、自己の存在に対する根本的な脅威としてではなく、その人の人生の過程における心理現象として現れるということから、また、シモーヌ・ド・ボーヴォワール(1908-1986)は、『第二の性』(1949)の中で、他者性の概念をヘーゲルの主従弁証法(Herrschaft und Knechtschaft、1807年)に当てはめ、それが男女関係の考え方であり、社会の女性に対する扱いや虐待の真の説明になるようであることを発見した。
出典
- ^ a b The Oxford Companion to Philosophy (1995) p. 637.
- ^ The Other, The New Fontana Dictionary of Modern Thought
- ^ Hegel, G. W. F.; Miller, A. V. (1977). Hoffmeister, J.. ed. Force and the Understanding: Appearance and the Supersensible World: Phenomenology of Spirit (5th ed.). New York: Oxford University Press. pp. 98–9. "The relation of essential nature to outward manifestation in pure change ... to infinity ... as inner difference ... [is within] its own Self."
- ^ Findlay, J. N.; Hegel, G. W. F.; Miller, A. V. (1977). Hoffmeister, J.. ed. Analysis of the Text: Phenomenology of Spirit (5 ed.). New York: Oxford University Press. pp. 517–18
- ^ Miller, J. (2008). “Otherness”. The SAGE Encyclopedia of Qualitative Research Methods. Thousand Oaks, CA: SAGE Publications, Inc.. pp. 588–591. doi:10.4135/9781412963909.n304. ISBN 9781412941631. オリジナルの21 November 2015時点におけるアーカイブ。 2015年1月27日閲覧。
- ^ "Otherness", The New Fontana Dictionary of Modern Thought, Third Edition (1999), p. 620.
- ^ "Othering", The New Fontana Dictionary of Modern Thought, Third Edition (1999), p. 620.
- ^ Mountz, Allison. “The Other”. Key Concepts in Human Geography: 328.
- ^ Honderich, Ted, ed (2005). The Oxford Companion to Philosophy (2 ed.). Oxford University Press. p. 673. ISBN 0199264791
- ^ The Encyclopedia of Philosophy (1967) Vol. 1, p. 76.
- ^ The Encyclopedia of Philosophy (1967) Vol. 8, p. 186.
関連項目
「他者」の例文・使い方・用例・文例
- ブレーンストーミング法においては他者の発言に反対意見を述べてはいけない。
- サーバントリーダーは、深い信頼を得るためにまず他者のために奉仕することが求められる。
- それはある人々が他者を威迫するために使う言葉だった。
- ドミナント戦略の目的は新規顧客の獲得というよりは競合他者の駆逐にあるといえる。
- 他者承認欲求
- 他者のためにできる何かを探しておりました。
- 他者との関わりあい方を学ぶ。
- あなたはこの内容を他者に話してはいけない。
- 私たちはだれでも、他者との一体感を切望する何かをうちに秘めている。
- 他者への優越性.
- もし己れの欲望を追求するのみで他者のそれを顧みなければ, この世は修羅場と化するであろう.
- 他者の存在を意識することが自己を知る第一歩である.
- 他者の買収によって経営者が解雇された際に、買収者によって支払われなければならない利益を渡すこと
- 他者の権利を侵害し、不当に加えられる悪行
- 性的快楽のために(自分や他者の)生殖器を手で刺激すること
- (人込みの中などで)他者に体をこすりつけて行うマスターベーション
- 他者を排除することによって(市場や商品を)独占すること
- (共通の血統または同属の帰属関係のような)他者と関係のある動物または植物
- 他者への自分勝手な無関心
- 受け取った対価と引き換えに、裏書して他者へ譲渡する
他者と同じ種類の言葉
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