顕微鏡的所見
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/20 16:27 UTC 版)
神経細胞の変性・脱落とグリオーシスが認められる。鍍銀染色ないし抗リン酸化タウ抗体(AT8ないしAD2)により神経細胞およびグリア細胞内のタウ凝集体(4リピート優位の異常リン酸化タウ蛋白)が観察される。神経細胞内には神経原線維変化(NFT)、神経細胞突起にはneuropil threads、アストロサイトには突起にタウ蛋白が房状に沈着する房状アストロサイト(tuft-shaped astrocyte)がオリゴデンドロサイトにはコイル小体(coiled body)が認められる。特に房状アストロサイト(tuft-shaped astrocyte)が進行性核上性麻痺に特徴的な所見である。 神経細胞脱落(neuronal loss) 軽度の神経細胞脱落は周囲の組織反応を参考に評価される。具体的にはメラニンやアルツハイマー神経原性変化などの神経細胞内の物質の外部への流出、マクロファージ反応である神経貪食現象、脂肪顆粒細胞やアストロサイト反応であるグリオーシス形成などである。グリオーシスはホルツァー染色で確認することができる。 ニューロピル・スレッド(neuropil threads) HE染色体標本で神経細胞、アストログリア、オリゴデンドログリアの間にある均一な場所をニューロピル(neuropil)という。神経線維網と訳される。電子顕微鏡では神経細胞の樹状突起、それと接触する無数のシナプス、アストロサイトの突起、ミクログリアの突起、さらに通過するだけの神経線維がニューロピルを形成する。ニューロピル・スレッド(neuropil threads)はニューロピルの変化ではなく、神経細胞や樹状突起と関係した変化である。特にアルツハイマー病の灰白質で広く分布する糸屑状の構造である。その密度は認知症の程度や神経原線維変化の数に相関する。ニューロピル・スレッドは神経細胞の樹状突起に由来する。アルツハイマー病に特異的ではなく、大脳皮質基底核変性症、進行性核上性麻痺、ピック病などでも認められる。 コイル小体(glial coiled body) HE染色では判別がつかないがGB(Gallyas-Braak)染色で白質のオリゴデンドログリア細胞の核周囲の細胞質にコイル状に取り巻いている構造物がみられることがある。これをコイル小体といい、リン酸化タウ蛋白の異常蓄積である。コイル小体は進行性核上性麻痺や大脳皮質基底核変性症などのタウオパチーで非特異的に認められる。核周囲の細胞質ではなくオリゴデンドログリア細胞の細胞突起にGB染色で縮れた糸屑様にみえることがある。こちらは嗜銀性スレッド(嗜銀性糸様物、argyrophilic thread)というリン酸化タウ蛋白の異常蓄積である。コイル小体、嗜銀性スレッド、房状アストロサイトをglial fibrillary tangles(GFT)と総称することがある。 房状アストロサイト(tufted-shaped astrocyte) アストロサイトの突起のうち細胞体に近い突起にリン酸化タウが異常蓄積したものであり、進行性核上性麻痺に特異的な所見である。アストロサイトの遠位部の突起にリン酸化タウが蓄積した場合はアストロサイト斑であり大脳皮質基底核変性症の所見である。 アルツハイマー神経原線維変化(Alzheimer neurofibrillary tangle;NFT) アルツハイマー神経原線維変化(NFT)は神経細胞内の胞体にできる嗜銀性の繊維状構造物である。筆の穂先、ループ状、渦巻きなどの形をとる。大脳皮質の錐体細胞では筆の穂先や火炎状(flame-shaped)のもの、皮質下核にみられるものは渦巻き型(globose-shaped)が多い。神経細胞内にリン酸化タウ蛋白の不溶性蓄積が起き、異常線維形成として蓄積されたものである。電子顕微鏡ではNFTは80nm程度の間隔でくびれをもつ管状構造、ねびれ細管(twisted tubules)、くびれがない直細管(straight tubules)がある。PSPでは直細管が多いとされているが必ずしもそうとは言えない。NFTは様々な原因による疾患で観察されるため慢性的な神経細胞障害に対する1つの反応様式と考えられている。 pretangle NFT形成は明らかではない神経細胞のtau蓄積を示す所見である。免疫染色では細胞質内が一様に染まるのが特徴的である。PSPよりもCBDで目立つ所見である。 グルモース変性 小脳歯状核の神経細胞の周囲にHE染色で高酸性を呈する雲状の構造が集積し、神経細胞の脱落を起こす変性像をグルモース変性という。歯状核に特異的な変性像である。歯状核にグルモース変性を呈する場合、歯状核門、上小脳脚の変性を随伴することが多く、小脳遠心系の変性の存在を示している。進行性核上性麻痺、マチャド・ジョセフ病、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症などで認められる。 下オリーブ核の仮性肥大 下オリーブ核の仮性肥大は進行性核上性麻痺でもみられることがある。
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