阿豆佐和気神社の大クスとは? わかりやすく解説

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阿豆佐和気神社の大クス

名称: 阿豆佐和気神社の大クス
ふりがな あずさわけじんじゃのおおくす
種別 天然記念物
種別2:
都道府県 静岡県
市区町村 熱海市西山町
管理団体
指定年月日 1933.02.28(昭和8.02.28)
指定基準 植1
特別指定年月日
追加指定年月日
解説文: 二幹南北ニ密接シテ立ツ舊時ハ相連リテ一大樹幹ヲ成セリト云フ北幹目通周囲一二、五メートル南幹約八メートル巨樹トシテ代表的ナリ
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阿豆佐和気神社の大クス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/12 09:04 UTC 版)

阿豆佐和気神社の大クス
地図

阿豆佐和気神社の大クス(あずさわけじんじゃのおおクス)は、静岡県熱海市西山町の来宮神社境内に生育するクスノキ巨木である[1][2][3]。推定の樹齢は2000年以上といわれ、蒲生の大クス鹿児島県姶良市)、武雄の大クス(佐賀県武雄市)と並んで「日本三大クス」に挙げられている[注釈 1][5]環境庁による巨樹・巨木林調査(昭和63年度)においては、蒲生の大クスにつぐ全国第2位の巨木とされた[6][7]

この木は1933年(昭和8年)2月28日に国の天然記念物となった[8][3]。通称を「来宮神社の大クス」(きのみやじんじゃのおおクス)ともいい、この呼び名でも親しまれている[5][2][9]

由来

来宮神社と大クス

東海道新幹線東海道線の電車が熱海駅を発着するとき、ごく短い時間だけ車窓から緑豊かな鎮守の森を目にすることができる[1]。これが来宮神社の社叢で、JR東日本来宮駅から徒歩で約5分程度のところに所在している[9][10]

神社の縁起によると、創建には次のような説がある[5][8]。710年(和銅3年)、漁夫の網に1体の木像がかかった[8][11]。何度捨ててもまた木像が網にかかるので漁夫はこれを怪しみ、海辺のマツの木の根元に木像を安置した[5][8]。ある夜漁夫の見た夢に、木像が神の姿で現れた[5][8]。木像は「自分は五十猛命である」と名乗り、「山に7本のクスの大樹があって波音の聞こえない地がある。そこに自分を祀れ。さすれば村民たちを守護しよう」と告げた[5][8][11]。そこで漁夫はこの地を選び、「木の宮(来宮)」として祀った[5][8]。それが来宮神社の始まりであるという[5][8]

社叢にはクスノキの他にもホルトノキシイノキなどの大木が多く見られ、昼間でも薄暗いほどである[8][7]。本殿に続く参道をしばらく歩いていくとやがて右手側にクスノキの巨木が現れるが、これは通称を「第二大クス」という別の木である[注釈 2][1][10][9][12]

大クスは本殿裏側、糸川の崖上に生育している[5][8]。2016年(平成28年)に出版された『千年の命 巨樹・巨木を巡る』によると、樹高は36メートル、推定の樹齢は伝承で2000年という[1]。樹皮は赤みがかって幹にはこぶ状の隆起がいくつも形成され、根は地面に深く食い込んだ後に地上にまで盛り上がって波打つほどである[5]

1824年(文政7年)の『甲申旅日記』という文献では「この山に大なる楠あり。めぐり十一抱え半あり。幹はうつろに成りてほらのごとく、三十六人居並ぶという。この外にも七八抱えの楠ありと聞けり」と言及されている[11]。もともとは1株の木として生育していたが、後に根元から南北2幹に分離した[8][10]。これは明治維新の頃に木材利用のために幹の根元に近い一部分を切り取ったところ、2幹に分かれてそのまま生育を続けたものである[8][10][13]

文化庁発行の『天然記念物事典』によれば、2幹を同一株として根元の総周囲を測ると約15.65メートル、目通り幹囲[注釈 3]は約12.50メートル、北幹の根元が約14.70メートルで目通り幹囲は約12.50メートル、南幹の根元が約10.85メートルで目通り幹囲は約8.25メートルである[8]。北幹は高さ約20メートルに達し、枝葉を多く茂らせて旺盛な樹勢を保っている[5][8][10]。南幹は地上約5メートルほどのところで折損し、その部分をトタンで覆っている[5][10]。この折損は、1974年(昭和49年)8月31日の台風23号の被害によるものである[注釈 4][5][10][13][3]

かつて来宮神社の境内には、7本の大クスがあったと伝わる[2][12]嘉永年間(1848年-1853年)に熱海村と伊豆山村の間で漁業権を巡る争い(大網事件)が起こった[2][3][12]。熱海村は訴訟費などを捻出するために、5本の大クスを伐採した[2][12]。次にこの大クスを伐ろうとしたところ、突如白髪の老翁が現れてこれを遮った[2][3][12][16]。その途端に大鋸が真っ二つに折れ、老翁の姿も消え去った[2][12][16]。人々はこの事態を神のお告げと受け止めて伐採を中止し、大クスと第二大クスの2本が神社境内に残ることになった[2][12]

南幹、トタンで覆った部分が見える。2018年12月

長きにわたって暴風雨などの災害を乗り越えてきた大クスは不老長寿や無病息災の象徴とされ、周りを1周すれば1年寿命が延びると伝えられている[5][2][12]。そのため、大クスの周囲を何度も回る人々の姿が見受けられる[5][2]。この大クスは1933年(昭和8年)2月28日に国の天然記念物となった[8][3]

大クスは、蒲生の大クス(鹿児島県姶良市)、武雄の大クス(佐賀県武雄市)と並んで「日本三大クス」に挙げられている[注釈 1][5]。環境庁による巨樹・巨木林調査(昭和63年度)においては、蒲生の大クスにつぐ全国第2位の巨木とされた[16][6]

通称を「来宮神社の大クス」(きのみやじんじゃのおおクス)ともいい、この呼び名でも親しまれている[5][2][9]。天然記念物指定名称に「阿豆佐和気神社」と冠せられているのは、それが指定当時の神社名だったためである[9][16]

国文学者の佐佐木信綱は、「来の宮は樹齢二千年の樟のもとに御国のさかえいのりまつらむ」という歌を詠んだ[2][17][18][19]。この歌の歌碑が来宮神社の境内に建立されている[2][17][18][19]。毎年5月5日に執り行われる「大楠祭」のときに奉納される「大楠の舞」は、佐佐木の歌にちなんで作られたものである[20][21]

大クス付近の整備

ライトアップされた大クス、2018年12月

来宮神社は、「御祭神五十猛命遷座一三〇〇年奉祝記念事業」として境内の緑化事業に着手した[22][23][24][25]。その一環として、大クスへの参道「楠への小路」の造成工事を実施している [22][23][25]

参道は全長約100メートルで、両脇には従来生えていたマダケモウソウチクに加えて、アオキヤツデオカメザサツワブキなど日本古来の植物を中心として「祝い」や「災い除け」の意味を持つ植物約6000株を植栽した[23][25]。これは視覚効果に配慮したもので、植物の緑を楽しみながら参道を抜けたところで目前に大クスがその姿を現すように構成したものである[23][25]。さらに雨天時の水はけを考慮に入れて、人の通る部分を珪藻土で舗装している[23][25]

2016年(平成28年)から始まった工事は、2018年(平成30年)8月14日に完了し、宮司らが神事と通り初めを行った[25]。宮司は「今後とも、多くの皆様が気持ち良くお参りできる境内環境づくりに努めていきたい」と語っている[25]

大クスと神社の境内は、17時から23時まで約140個の照明でライトアップされている[22][12][26]。これは来宮神社が全国の神社に先駆けて夜間の参拝者に配慮して2012年(平成24年)から開始したもので「川のせせらぎのもと自然を感じ、心くつろげる空間」を創ったものという[22][12][26]

交通アクセス

所在地
  • 静岡県熱海市西山町43-1
交通

脚注

注釈

  1. ^ a b 日本三大クスには諸説があり、本庄の大クス(福岡県築上郡築上町、国の天然記念物)の名を挙げる場合もある[4]
  2. ^ 『日本の巨樹・巨木 森のシンボルを守る』などの著者、高橋弘は、第2大クスについて「樹齢1000年はくだらないであろうか」と推定している[10]
  3. ^ 「目通り」、「目通り直径」ともいい、人間の目の高さで測った樹木の幹回りの寸法を指す。地方によって、測る位置は地上 1.52メートル (5尺) と 1.82メートル (6尺) の違いがある[14][15]
  4. ^ 『熱海物語』では台風被害を「昭和46年」としているが、本項では『巨樹・巨木 日本全国674本』、『日本の巨樹・巨木 森のシンボルを守る』などの記述に拠った[5][10][3]

出典

  1. ^ a b c d 『千年の命 巨樹・巨木を巡る』、p.82.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m 『楠(くすのき)』、pp.218-220.
  3. ^ a b c d e f g 『日本の天然記念物5 植物III』、p.98.
  4. ^ 本庄の大楠”. 福岡よかとこ(一般社団法人九州ブランド協議会). 2019年1月1日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 『巨樹・巨木 日本全国674本』、p.166.
  6. ^ a b 『日本の巨樹・巨木林(全国版)』、p.66.
  7. ^ a b 『郷土資料事典 ふるさとの文化遺産 22 静岡県』、pp.92-93.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 『天然記念物事典』、pp.141-142.
  9. ^ a b c d e f 『神様の木に会いに行く』、p.85.
  10. ^ a b c d e f g h i j 『日本の巨樹・巨木 森のシンボルを守る』、pp.24-25.
  11. ^ a b c 『伊豆大事典』、pp.377-378.
  12. ^ a b c d e f g h i j 天然記念物『大楠』”. 熱海来宮神社公式ウェブサイト. 2019年1月1日閲覧。
  13. ^ a b 『熱海物語』、p.97.
  14. ^ 目通り直径(メドオリチョッケイ)の意味・解説”. SUUMO(スーモ)住宅用語大辞典. 2019年1月1日閲覧。
  15. ^ 目通り”. コトバンクブリタニカ国際大百科事典 小項目事典). 2019年1月1日閲覧。
  16. ^ a b c d 来宮神社の大楠(阿豆佐和気神社の大クス)”. 静岡・浜松・伊豆情報局(一般社団法人プレスアンユニオン). 2019年1月1日閲覧。
  17. ^ a b 『関東周辺の巨樹を歩く』、p.37.
  18. ^ a b 佐佐木信綱の歌碑(来宮神社)”. ふじのくに文化資源データベース(静岡県文化・観光部文化政策課). 2019年1月2日閲覧。
  19. ^ a b 信綱歌碑めぐり (近府県)”. 佐佐木信綱顕彰会. 2019年1月2日閲覧。
  20. ^ ご神木「大楠」に感謝 樹齢2100年の生命力に長寿願う/来宮神社・大楠祭”. 熱海ネット新聞 (2018年5月6日). 2019年1月3日閲覧。
  21. ^ 5月5日は「大楠祭」熱海のパワースポットで十二単の巫女、優雅に大楠の舞 <熱海・来宮神社>【熱海市】”. 伊豆の観光情報サイト イズハピ(伊豆新聞社) (2017年4月27日). 2019年1月3日閲覧。
  22. ^ a b c d 來宮神社の境内整備コンセプトと整備経緯”. 熱海来宮神社公式ウェブサイト. 2019年1月1日閲覧。
  23. ^ a b c d e 楠への小路”. 熱海来宮神社公式ウェブサイト. 2019年1月1日閲覧。
  24. ^ 大楠五色の杜”. 熱海来宮神社公式ウェブサイト. 2019年1月1日閲覧。
  25. ^ a b c d e f g 大楠に続く参道完成、宮司ら通り初め 熱海・来宮神社”. 静岡新聞社 (2018年8月15日). 2019年1月1日閲覧。
  26. ^ a b 來宮神社 the Kodama Forest Project”. 熱海来宮神社公式ウェブサイト. 2019年1月1日閲覧。

参考文献

関連図書

関連項目

外部リンク

座標: 北緯35度06分01.8秒 東経139度04分04.15秒 / 北緯35.100500度 東経139.0678194度 / 35.100500; 139.0678194



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