鎖置換カスケード
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 19:41 UTC 版)
「DNAナノテクノロジー」の記事における「鎖置換カスケード」の解説
鎖置換反応のカスケードを利用して計算や構造形成を行うことができる。何らかのイニシエーター鎖への応答として新しい配列が露出するのが一つの鎖置換反応である。多数の反応をつなげることで、ある反応で露出した配列が次の反応のイニシエーターとなるような生化学カスケード(英語版)を構築できる。さらにそれを組み合わせて、多数の要素からなる化学反応ネットワークを構築すれば複雑な計算や情報処理を行わせられる。カスケード反応は新しい塩基対の形成によるエネルギー利得と分解反応によるエントロピー増大によりエネルギー的に有利となる。鎖置換カスケードを用いれば等温操作によってアセンブリや計算プロセスを行うことが可能で、従来の核酸アセンブリにおいて加熱後にゆっくり冷却することで目的の構造を形成させる熱的アニーリングステップが必要だったとは対照的である。また鎖置換カスケードのイニシエーター種に触媒機能を持たせて、1当量未満のイニシエーターによって反応を一方向に進めることもできる。 鎖置換複合体からは複雑な計算を行う分子論理ゲートを作成することができる。電流によって入出力を行う従来の電子計算機とは異なり、分子コンピュータは特定の化学種の濃度を信号とする。核酸鎖置換回路では、置換複合体上のほかの鎖と結合して消費されたり、また切断されて出現したりする核酸鎖の存在が信号となる。このアプローチによってAND、OR、NOTゲートのような論理ゲートが作製されている。より近年では、130本のDNA鎖からなるゲート系によって0〜15の整数の平方根を計算できる4ビット回路が構成されている。 鎖置換カスケードを動的な構造アセンブリに用いた例もある。そこでは反応体としてヘアピン構造を用いており、入力鎖が結合したときに鎖が切り離されるのではなく、ヘアピンが開くことによって配列が新しく露出するようになっている。開いたヘアピンは成長中の複合体に追加される。このアプローチからは3~4アームのジャンクションやデンドリマーのような単純な構造が作製されている。
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