鎖置換
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/06 09:03 UTC 版)
ウイルスの中には線状ゲノムを末端から複製するという珍しい例が存在する。代表的なのはアデノウイルスとφ29ファージにおける鎖置換である。両3'末端からそれぞれ一本の娘鎖が合成されるが、これは同時期ではない。すなわち、一度の複製フォーク出発に1つのDNAポリメラーゼしか伴わず、別時期のリーディング鎖合成が2回行われる。ほかの生物ならラギング鎖が合成されるだろう5'→3'の親鎖は複製が進み、遊離してもssDNAのまま放置。複製が反対側の末端に到達すると、完全に塩基対が置き換えられた親ssDNAは遊離する。このssDNAも独自に複製されるが、そのためには短くとも3'末端に塩基対が作られ、複製起点が二重らせんであることが必要である。 鎖置換を複製機構とするいくつかのウイルスは、それぞれの5'末端に末端タンパク質が共有結合している。例えば、アデノウイルスではセリンがホスホジエステル結合でつながっている。末端タンパク質には、プライマーとなるヌクレオチドのシチジンを持つことと、DNAポリメラーゼと会合するという2つの役割がある。このことから次のモデルが考えられている。末端タンパク質とDNAポリメラーゼが複合体を形成し、これがDNA末端に結合するというものである。次いでシチジンから娘が伸長されるのだろう。この共有結合は複製後も取り残されると考えられており、実際アデノウイルスの5’末端に前回使用されたままのセリンが観察される。これは次の複製開始まで放置され、複製のときに新しい末端タンパク質と置き換わる。 末端タンパク質はDNA末端から9〜18 bpの間に陣取る。隣の17〜48 bpの領域は、複製開始に必要な宿主由来の核因子I (nuclear factor I:NF I) の結合に不可欠である。したがって、複製開始複合体はDNA末端から9〜18 bpの間で形成される。
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