酵素の試験
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/15 07:46 UTC 版)
酵素の試験 (アッセイ) とは、実験室で酵素反応の速度を測ることである。酵素は反応を触媒する過程で消費されることはないため、実際に測るのは基質か生成物の濃度変化である。測定方法にはいろいろある。紫外・可視・近赤外分光法では、生成物と反応物の吸光度の違いを測る。放射能分析では生成物が徐々にできてくるのを放射性元素の取り込みや放出によって測る。分光法は、反応速度を連続的に測定できるので便利である。放射能分析では、サンプルを取り出して測定する必要がある (非連続的分析である) が、多くの場合非常に鋭敏で、ごくわずかな酵素活性でも測定できる。よく似た方法として質量分析器を使う手もあり、基質が生成物へ変化する過程で安定同位体が取り込まれたり放出されるのを観測する。 最も敏感な酵素測定法はレーザを使う方法である。顕微鏡下で酵素1分子にレーザの焦点を合わせ、反応を触媒する過程での変化を観察する。反応中に補因子の蛍光が変化するのを測定したり、蛋白質の一部分を蛍光色素でラベルして触媒中の動きを調べる。こうした実験から酵素単一分子の速度論やダイナミクス (反応中の動き) について新しい知見が得られつつある。従来の方法は数百万にも及ぶ多数の酵素分子の挙動を平均的したものを観察していた。 酵素測定における典型的なグラフが左に示してある。反応開始時点では初期速度にしたがって線形に (時間に比例して) 生成物ができる。時間が経つ (グラフの右) と反応速度は低下する。基質が消費され生成物が蓄積するからだ。初期速度で反応が進む時間の長さは、測定条件によって変わり、数ミリ秒のこともあれば、数時間に及ぶこともある。通常の測定ではこの期間が約1分になるようにしておくと実験が容易である。ただし、液体を急速に混ぜ合わせる装置を使えば初期速度の段階が1秒に満たない反応でも測定できる。これをストップフロー法という。これらの高速な測定技術は、後述するように定常状態に達する前の速度を調べるのに不可欠である。 酵素反応速度論の実験では反応のこの初期部分、つまり生成物が時間に比例してできてくる線形部分に注目することが多い。しかし、反応全体を測定してそのデータを非線形の速度方程式に当てはめることもできる。このような測定をprogress-curve 解析という。この方法は初期速度が速すぎて正確に測定できないときに有効である。
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