遺伝子の近縁度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/11 01:18 UTC 版)
遺伝子の利他的行動の利益の計算に必要な近縁度とは、二人の親類がひとつの遺伝子を共有している確率である。ここでは、話を簡潔にするために遺伝子Xについての近縁度を見ていく。ある個体が遺伝子Xを持っていたとしてその個体の姉がXを持っている確率は50%である。ある個体がXのコピーを一つ持っていたとして、それはその個体の父親か母親のどちらかから受け取っているはずである。このXを父親から受け取ったとすると、父親の体細胞のすべてはXを一つ持っており、精子を作るときには父親の全遺伝子の半分が精子に入るので、姉がXを受け取っている確率は50%である。母親のときも同じように50%の確率で姉はXを受け取っている。これは、ある個体に100人の兄弟がいればそのうちの約50人はXを持っており、また、ある個体が100個の珍しい遺伝子を持っていればそのうちの約50個を兄弟が持っているということでもある。先ほどの例の兄弟の場合は1/2である。近縁度の計算には、まず世代間隔を数える必要がある。世代間隔を求めるためにはまずAとBの共通の祖先を見つけ出す。そして、Aから共通の祖先まで世代を遡り、再びBまで世代を下ることで得られる。AがBの叔父であるなら世代間隔は3である。AとBの近縁度を求めるには世代ごとに1/2を掛けていけばいい。AとBが叔父と甥の関係ならば近縁度は(1/2)3である。なお、これはAB間の血縁度の一部である。二人に共通の祖先が複数人いる場合には先ほどの近縁度に共通の祖先の人数をかける。いとこ同士には共通の祖先が二人いる(祖父と祖母)。いとこの世代間隔は4なので近縁度は2×(1/2)4=1/8である。 近縁度の計算が出来たら、利他的行動の利益についてより正確に理解できるようになる。5人のいとこ(近縁度=1/8)を救うために命を捨てる遺伝子は増えていかないだろうが、5人の兄弟(近縁度=1/2)か10人のいとこを救うために命を投げ出す遺伝子は増えていくだろう。この遺伝子は平均として利益の受益者の中で行き続けることができるからである。ここでは個体間の近縁度を計算によって求めたが、自然の中で動物がそのように近縁度を計算することはない。しかし、人間が放り投げた玉の放物線の軌道を、複雑な微分方程式なしに予測して玉をキャッチできるように、動物は複雑な計算をしているがごとく血縁者の利益のために行動する。そのように遺伝子はプログラミングされているのである。
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