貯蔵技術
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/05 04:19 UTC 版)
水素をエネルギー利用する上での課題のひとつには、ガス状水素を貯蔵する際の問題がある。既述のように空気との混合4.1 – 74.2 %という広い爆発限界の範囲を持つために、漏出しないようにする技術が必要となる。水素は原子半径が小さいために容器を透過したり、劣化させたりするため、ほかの元素や燃料を貯蔵するのとは勝手が違ってくる。2002年2月に発足した「燃料電池プロジェクト・チーム」の報告では、自動車に積載しガソリン相当の 500 km以上走行が可能な水素貯蔵を目標に据えた。これに相当する水素ガスは5 kgであり、常温常圧下では61000リットルに相当する。 従来の貯蔵手法では、高圧化と液体化の2つがある。水素は金属脆化を起こすため、特に高圧ガスを密閉するにはアルミニウム – マグネシウム – シリコン合金をファイバー強化したものが開発されているが、日本の高圧ガス保安法が定める上限の350気圧では実用的に自動車積載が可能なガス量は3.5 kgにとどまり、5 kgを実現するためには安全に700気圧相当を密封できる容器が検討されている。液体化も同様の問題を解決する必要があり、オーステナイト系ステンレス鋼やアルミニウム合金・チタン合金などを素材に検討が進む。しかし、高圧化や液体化には密封する際にも加圧や冷却などでエネルギーを消費してしまう点も課題として残る。 水素を貯蔵する物質には金属類である水素吸蔵合金と、無機・有機物質が提案されており、いずれも水素化物を作り効率的に水素を捕まえることができる。水素吸蔵合金は、ファンデルワールス力(分子間力の一種)で表面に吸着(物理吸着)させた水素分子を原子に解離(解離吸着、化学吸着)し、水素化合物を反応生成しながら合金の格子内に水素原子を拡散させる。取り出すには加熱または合金周囲の水素ガス量を減らすことで水素化物が分解しガスが放出される。必要な温度は通常50 °Cであり、高くとも250 °C程度、圧力も常圧から100気圧程度までであり、水素ガスの体積を1000分の1に収めることができる。課題は合金と水素の重量比にあり、現状では5 kgの水素を吸蔵するための合金重量は170 – 500 kg程度が必要になる。このほか、イオン結合を主とする錯体水素化物や、アンモニアボランなども水素吸蔵性能を持つ物質として研究されている。
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