解析力学とシンプレクティック幾何
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 21:21 UTC 版)
「シンプレクティック幾何学」の記事における「解析力学とシンプレクティック幾何」の解説
シンプレクティック幾何学の歴史は、ハミルトンに始まる。ニュートンから始まる力学は、オイラー、ラグランジュによって変分法をもとにした解析力学へと洗練されていった。すなわち、ニュートンの運動方程式 m x i ¨ = F i {\displaystyle m{\ddot {x_{i}}}=F_{i}} からオイラー=ラグランジュ方程式 d d t ( ∂ L ∂ q i ˙ ) − ∂ L ∂ q i = 0 {\displaystyle {\frac {d}{dt}}\left({\frac {\partial L}{\partial {\dot {q_{i}}}}}\right)-{\frac {\partial L}{\partial q_{i}}}=0} への移行である。 オイラー・ラグランジュ方程式は、数学的には位置座標を変数とする配位空間の接バンドル上の方程式である。それに対して、ハミルトンによる力学の定式化、すなわち、ハミルトン形式は、運動方程式を配位空間の余接バンドル上の方程式 q i ˙ = ∂ H ∂ p i , p i ˙ = − ∂ H ∂ q i {\displaystyle {\dot {q_{i}}}={\frac {\partial H}{\partial p_{i}}},\,\,\,\,\,{\dot {p_{i}}}=-{\frac {\partial H}{\partial q_{i}}}} と見ることであった。この余接バンドルは位置座標と運動量を変数とする空間である。余接バンドルを物理学では、相空間と呼ぶこともある。速度は位置座標を微分して得られるものであるから、位置座標と速度を用いるラグランジュ方程式は二階の常微分方程式となっている。それに対して、ハミルトン形式では運動量自体を変数として用いるため、方程式は一階の常微分方程式となっている。ここで、速度と運動量は区別されなくてはならないことに注意する。なぜなら、一般化座標を取り替えたときに、一般化速度と一般化運動量の変換則はそれぞれ異なるからである。一般化速度の変換則は接ベクトルの変換則と同じであり、一般化運動量の変換則は余接ベクトルの変換則と同じである。 さて、ハミルトンの変分原理によれば、運動は作用積分の停留点、すなわち δ ∫ ( ∑ i p i d q i − H d t ) = 0 {\displaystyle \delta \int \left(\sum _{i}p_{i}\,dq_{i}-H\,dt\right)=0} を満たす相空間上の曲線として与えられ、それは上のハミルトンの正準方程式を満たすというものであった。しかし、シンプレクティック形式を用いれば変分原理を通ることなく、方程式を書き下すことが出来る。 ω 0 = ∑ i d p i ∧ d q i {\displaystyle \omega _{0}=\sum _{i}dp_{i}\wedge dq_{i}} をシンプレクティック形式 (正準2形式) とするとハミルトンの正準方程式は d γ d t = X H , γ ( t ) = ( q 1 ( t ) , ⋯ q n ( t ) , p 1 ( t ) , ⋯ , p n ( t ) ) {\displaystyle {\frac {d\gamma }{dt}}=X_{H},\,\,\,\gamma (t)=(q_{1}(t),\cdots q_{n}(t),p_{1}(t),\cdots ,p_{n}(t))} と表される。ここで X H {\displaystyle X_{H}} はハミルトニアン H {\displaystyle H} から定まるハミルトンベクトル場である。 解析力学の相空間上のシンプレクティック形式 ω 0 {\displaystyle \omega _{0}} による定式化は、さらに一般のシンプレクティック多様体上へと拡張される。 ( M , ω ) {\displaystyle (M,\omega )} をシンプレクティック多様体とし、 H {\displaystyle H} を M {\displaystyle M} 上の滑らかな関数とする。このとき、ハミルトンの正準方程式がやはり上と同じ形式で、 d γ d t = X H {\displaystyle {\frac {d\gamma }{dt}}=X_{H}} と定義される。ただし、シンプレクティック多様体まで拡張してしまうと、ハミルトン形式に対応するラグランジュ形式は一般には見付けられない。
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