視覚と光の関係
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/20 04:34 UTC 版)
イブン・ハイサムは古代の幾何学的な視覚論、とりわけプトレマイオス『光学』を大いに利用しているが、「視線」の物理的な不自然さについては、アリストテレスの見解に同意した。しかしアリストテレスの視覚論にも与せず、光が物体の「色」を眼に届けるという、新たな理論を打ち出した。古代の主要な視覚論では、光は補助的な役割しか与えられなかったが、これによって光が視学で主要な場所を占めることになった。また、彼は、光線が視線と概ね同じ経路を逆向きに進むと結論し、古代の幾何学的な視覚論の成果を取り込むことができた。 また、光は視線と異なって煙や埃で経路を浮かび上がらせることができ、その性質を実験で多角的に調べることができた。例えば、外送理論への反論で、複数の視線が空気中で交錯した場合の効果を問題視する議論があった。光についても、似たような問題が考えられる。そこでイブン・ハイサムは、ロウソクから発せられる光を壁に開けた小さな穴で交じらわせたのちスクリーンに投影し、ロウソクが二本でも像は乱れないことを示した。そして、光が光源から四方に均等に放出されて直進するとして実験結果を説明した。これはカメラ・オブスクラの特殊な場合である。 視覚を光で説明した結果、古代の視覚論では問題にされなかった、眼における像の形成の問題が浮上した。光は独自の法則に従って直進するだけであるので、眼に入って適切な像を結ぶかどうかは全く自明ではない。 イブン・ハイサムは当時のガレノス流の解剖学を参考にしてこの問題に取り組んだ。しかし、当時の眼の構造論は、この目的には全く不十分であった。彼の理論では、水晶体に光を屈折させるほかに水晶体の表面に垂直な光線のみを選ぶ役割を果たさせた。また、水晶体から網膜までのプロセスは、純粋に光学的な現象とはされなかった。正立像に準拠したことを含め、古代の視覚論の基本的な構造を保つ結果となった。 しかし、問題設定や分析の手法、特に点状解析はヨハネス・ケプラー以降の視覚論でも継承される。また、眼に入射した光が屈折を経てから感知されることを証明するなど、鋭い見識を発揮しているところもある。証明の一環として、古代の視線の理論では説明できない現象を巧みな実験で示しており、彼はこの発見を視線の理論に対する、自らの理論の優位の根拠とした
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