衝撃限界速度
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/19 01:18 UTC 版)
ポリマーにおいて、振子型衝撃試験機などでの衝突速度と破壊エネルギーの関係曲線を引いた時、金属やガラスと同様にある速度(衝撃限界速度)で破壊エネルギーは極大値を示し、それ以上の速度では減少する。この減少領域ではポリマーの流動単位は流動を行わなくなり、ポリマーは塑性変形をしなくなると考えられ、結果、限界速度より高速側でポリマーは脆く、低速側で強いと考えられている。 衝撃限界速度の存在は金属と同様であるが、衝撃限界速度に達するまでの、低速度域から速度を増大させていった時のポリマーの挙動はより複雑である。この挙動によりポリマーは2種類に分けられる。一つ目は、速度の増大とともに破壊エネルギーが増大するグループである。結晶化または配列化に起因する衝撃限界速度が、動的試験の速度範囲よりも低速側にずれている場合にみられる。天然絹糸、ビスコース人絹、セラニーズ人絹、銅アムモニヤ人絹、オーロン、熱処理ナイロン、熱処理アミラン、ビニロン、延伸したフィルムが一つ目に該当する。二つ目では、低速度域では速度の増大とともに破壊エネルギーが減少し、極小点が現れてそれ以降、衝撃限界速度まで破壊エネルギーが増大する。結晶化または配列化に起因する衝撃限界速度が、静的試験の速度範囲と動的試験の低速域との間に存在する場合、二つ目の挙動が現れる。ラミー、木綿、未熱処理ポリアミド、無配列化ポバール、ある種のフィルム(硝酸繊維素、酢酸繊維素、ポリスチロール、酢酸ビニルなど)が属する。二つ目のグループも、測定温度か重合度を変化させ、衝撃限界速度を高速域に移動させると二つ目の挙動を示す。逆に一つ目のグループを二つ目に変化させることもできる。 一般的にポリマーでは、ある種の転移温度以上で別の衝撃限界速度が新たに出現する。例えば、ナイロン繊維では10℃から170℃の測定範囲では衝撃破壊エネルギーと速度は右図のような関係となり、温度により4つの衝撃限界速度のいずれかが観測される。10℃ではⅠ10とⅡ10の2つの衝撃限界速度が観測される。30℃ではⅠ10は高速側の観測範囲外に移動して現れず、Ⅱ10はⅡ30へと高速側へ移動する。Ⅱ30はⅡ80→Ⅱ100と高温になるにつれて高速側へと移動する。100℃では3つ目の衝撃限界速度が現れ、高温になるにつれてⅢ100→Ⅲ125→Ⅲ150→Ⅲ170と移動する。125℃では4つ目の衝撃限界速度が観測され、Ⅳ125→Ⅳ150→Ⅳ170と移動する。同様の衝撃限界速度の転移現象は酢酸繊維素の繊維とフィルムで確認されている。 ポリマーにおいて衝撃限界速度 Vb は次式で求められる。 V b = A ′ e − C T b {\displaystyle V_{\mathrm {b} }=A'e^{-{\frac {C}{T_{\mathrm {b} }}}}} ここで、A′ と C は定数、e はネイピア数、Tb は脆化温度である。上式は金属においても成り立ち、金属の場合において Tb は衝撃限界温度である。衝撃限界速度における破断点(衝撃限界時間)tb は次式で表される。 t b = A e E R T {\displaystyle t_{\mathrm {b} }=Ae^{\frac {E}{RT}}} ここで、A は定数、E は活性化エネルギー、R は気体定数、T は絶対温度である。また、酢酸繊維素、銅アンモニア人絹、ビスコース人絹において、平均重合度 p と tb の間に次の関係が成り立つ。 log t b = B + D p ¯ 1 2 {\displaystyle \log t_{\mathrm {b} }=B+D{\bar {p}}^{\frac {1}{2}}} ここで、B と D は定数である。可塑剤が加えられている場合、tb は変化する。このとき、酢酸繊維素と各種フタル酸エステルにおいて、可塑剤の重量含有率 W と tb の間に次の関係が成り立つ。 log t b = log t b 0 − W ( m + E 2 − E 1 R T ) {\displaystyle \log t_{\mathrm {b} }=\log t_{\mathrm {b0} }-W\left(m+{\frac {E_{2}-E_{1}}{RT}}\right)} ここで、tb0 は可塑剤無しでの衝撃限界時間、m と E1 は定数、E2 は高分子の活性化エネルギーである。ジオキサン中での酢酸繊維素の延伸物において、延伸度 S と tb の間に次の関係が成り立つ。 t b = G e E − n S R T {\displaystyle t_{\mathrm {b} }=Ge^{\frac {E-nS}{RT}}} ここで、G と n は定数である。
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