自沈用との誤解
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 23:40 UTC 版)
前述のように、キングストン弁は船外から直接通じている配管に接続されているため、船内の配管系に亀裂や破断が生じて浸水が起きた場合などの非常事態には、速やかな閉塞が要求される。仮にキングストン弁が開放状態で閉塞できない場合、船外から船内へ水が直接流入してしまうため、浸水沈没に直結する致命的な危険性がある。 上述の危険性から、艦船を自沈させる際にキングストン弁を意図的に開放することがあり、そのために「非常時に艦船を速やかに浸水沈没させるための装備として“キングストン弁”というものが存在している」との誤解が存在している。 しかし、キングストン弁は末端の注水弁と合わせ、前述の通り本来は船内に取り込む外水の制御を目的として設置された弁であり、自沈のために解放するのは目的外の「転用」に過ぎない。また、開放しても艦船を急速に海没処分できるわけではなく、そのほかの破壊行為も同時に実行されることが多い。スカパ・フローでの自沈事例では、全ての注水弁を開き導水管を破壊しただけではなく、舷窓を開け、防水扉や復水器を解放し、一部で隔壁も破壊することで、11時から17時までの間に艦隊の大部分を沈没・座礁させることに成功している。また、戦時に軍艦を自沈させる際には、爆薬を使った爆破行為や、味方艦船からの砲撃や雷撃も併用されることが多く、注水弁(キングストン弁)を全開放すること“のみ”によって自沈させることは基本的にない。 誤解の原因ははっきりしないが、少なくとも日露戦争当時は日露双方で「自沈の際に使う何か」とする表現が使われていたようであり、『明治三十七八年海戦史』に「キングストン弁を開き(略)之を沈没せしめ」とある。一方で同じ場面でも「此一戦」(水野廣徳著)では「海水弁」と書いている。ロシア側の記録ではアレクセイ・ノビコフ=プリボイが『バルチック艦隊の潰滅(原題:Цусима(ツシマ)』の中で“キングストン”(кингстона)が、抜く、もしくは開くと自沈に直結するもの、として複数回記述している。旧日本海軍の戦闘詳報では「キングストンバルブ」の表記が見られる。
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