編集方針に関する批判
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 20:41 UTC 版)
「きけ わだつみのこえ」の記事における「編集方針に関する批判」の解説
原版を作成した東大協同組合出版部は、戦没者遺族が編集に携わっていることもあり、編集方針として「平和への訴え」を掲げた。編集者の一人である渡辺一夫からは「かなり過激な日本精神主義的な、戦争謳歌にも近いようなものまでも全部採録するのが公正である」との意見も出たが、その後「痛ましすぎる声はしばらく伏せたが方がよい」として意見を撤回している。このような方針に対して、立花隆は『天皇と東大』(文藝春秋)でこれを左側からの「歴史の改竄」であると批判した。富岡幸一郎も『新大東亜戦争肯定論』にて「遺された言葉が、戦後の反戦平和運動のスローガンに利用された」と述べている。 ただし、後に続編として出版された『第2集 きけ わだつみのこえ』では右翼的表現や日本主義的言辞が含まれた手記も採録されている。また、応募された候補作のうち不採用のものと採録されたものを比較しても内容に大きな差はなく、激しい軍国主義・愛国主義調の手記は存在しなかった。むしろ当時の学生の間では概ね共通した軍国主義批判・国粋主義批判の風潮があったとされる。第2集ははじめに岩波書店に出版を申し込んだが、岩波側が岩波文庫から出版するには新しすぎるとしたために、光文社のカッパブックスから出版された。 このほか、『きけ わだつみのこえ』は、当時ごく少数であった高等教育を受けたインテリの文章を集めたものであり、人間本来の死ではなく、インテリの死だけを美化したのではないかとの意見や、インテリと教育を受けていない一般民衆との間には価値観の違いがあり、一般民衆の戦争観の視点に編集側が欠けているのではないかとの批判がある。三島由紀夫は『きけ わだつみのこえ』について、「テメエはインテリだから偉い、大学生がむりやり殺されたんだからかわいそうだ、それじゃ小学校しか出ていないで兵隊にいって死んだやつはどうなる」と批判している。 『はるかなる山河に』は、東大だけが大学ではあるまいとの批判を巷間から受けたが、『きけだつみのこえ』も、誰それはどこの学校を出ているといった事柄にこだわることで成り立っているとの評価もある。
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