組合せ論的群論と幾何学的群論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 05:53 UTC 版)
「群論」の記事における「組合せ論的群論と幾何学的群論」の解説
群を記述するのには複数の方法がある。有限群は、可能な全ての積 g * h によって構成される乗積表を書き出すことによって記述することができる。もう一つの主要な方法としては、「生成系(生成元)と関係式」によって群を定義する方法であり、これは群の表示と言われる。 群 G の生成系を与える任意の集合 F = {gi}i ∈ I が与えられたとき、F の生成する自由群から群 G への全射準同型が存在する。この全射準同型の核は F のある部分集合 D で生成され、基本関係のなす部分群と呼ばれる。このような群の表示は、ふつう ⟨F | D⟩ と書かれる。例えば、整数全体の成す加法群 Z = ⟨a | ⟩ はただ一つの元 a (= ±1) によって生成され、基本関係を持たない(n が 0 でない限り n1 は 0 ではないから)群である。生成元に対応する記号からなる文字列は語 (word) と呼ばれる。 組合せ論的群論は、群を生成元と基本関係の側面から研究する学問である。これは、特に何らかの有限性条件、例えば有限生成であるとか有限表示を持つ(つまり、有限生成かつ基本関係が有限個しかない)というような条件が仮定されている場合に有用である。この分野は、その基本群を通してグラフ理論との関係を利用することができて、例えば自由群の任意の部分群が自由であることが示せる。 群を生成元と基本関係によって与える方法から、いくつかの問題が自然に生じてくる。語の問題というのは「群の生成元からなる二つの語が、いつその群の同じ元を定めるか」というものである。この問題をチューリングマシンに関連付けることにより、この問題を一般に解決することのできるアルゴリズムが存在しないことを示すことができる。同じくらい困難な問題に「異なる表示によって与えられる二つの群が、いつ互いに同型となるか」という同型問題がある。例えば、さきほどの加法群 Z は ⟨x, y | xyxyx = 1⟩ とも表すことができるが、この表示と先ほどの表示とが同型な群を与えるということは、表示だけ見れば自明なことではない。 幾何学的群論とは、語の問題や同型問題といった問題に対して、群を幾何学的対象として見たり、群が作用する適当な幾何学的対象を求めるといったような幾何学的な視点から解決を試みるものである。前者の方法としては、群の元を頂点とし、右からの乗法によって写りあう元を辺で結んだケイリーグラフがある。二つの元が与えられれば、それらの元を結ぶ最短経路の長さとして語の距離が定義できる。後者のやり方として、ミルナーと Svarc による、(コンパクト多様体のような)距離空間 X に適当な方法で作用する群 G が与えられれば、群 G は空間 X に擬等長 (quasi-isometric) であるという定理がある。
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