第十一の書板
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 03:09 UTC 版)
ギルガメシュは遥かなるウトナピシュティム(注:「遠方」の意)に言った。 「ウトナピシュティムよ。あなたの姿を見ても、私があなたであってもおかしくないほど、全然違いがないではありませんか。どうかお願いです。私にあなたがどのようにして神々の集まりに立って、不死の生命を探し当てたのかを話してください。」 ウトナピシュティムはギルガメシュに向かって言った。 「ギルガメシュよ、あなたに隠された事柄を明かそう。そして神々の秘密を話してあげよう。 (洪水伝説省略) そこでエンリル(注:シュメールの主神)は(略)祝福する為に私たちの間に入り、私の額に触れて言いました。 『これまでウトナピシュティムは人間でしかなかった。今からウトナピシュティムとその妻は我ら神々のようになりなさい。ウトナピシュティムは遥か遠い地の河口に住みなさい。』 こうして神々は私を連れ去り、遥か遠い地の河口に住まわせました。だが今は、誰があなたの為に神々を呼び寄せて集合させることができるのですか。あなたの求める生命を、あなたが見つける為に、六日と六晩眠らずに起きていなさい。」 ギルガメシュがウトナピシュティムの足もとに座ると、眠りが雲のようにギルガメシュの上に漂った。(略) ウトナピシュティムの妻は遥かなるウトナピシュティムに向かって言った。 「その人が目を覚ますように触れてあげなさい。やって来た道を無事に帰って行くように。出発した市の門を目指して彼の国へ帰るように。」 (略)七日目のパンがまだ炭火の上にある時、ウトナピシュティムが触れるとギルガメシュは目を覚ました。(略) ギルガメシュは遥かなるウトナピシュティムに向かって言った。 「ああ、ウトナピシュティムよ、私はこの先どうしたらよいでしょう。私はどこへ行ったらよいのでしょう。私の肉体を死神がシッカリと捕まえてしまったのです。私の寝室には死が座っている。そして私がどこに顔を向けても死が待ち構えています。」(略) ギルガメシュと船頭ウルシャナビは舟に乗った。(略) ウトナピシュティムの妻は遥かなるウトナピシュティムに言った。 「ギルガメシュは大変な苦労をしてここまでやって来ました。彼に何も与えないままで、国へ帰すのですか。」(略) ウトナピシュティムはギルガメシュに向かって言った。 「ギルガメシュよ、あなたは大変な苦労をしてここまでやって来た。 私は何もあなたに与えていないのに、国へ帰すわけにもいくまい。ギルガメシュよ、あなたに隠された事柄を明かそう。そして神々の秘密をあなたに話してあげよう。その根が藪のトゲのような草がある。そのトゲは野薔薇のようにあなたの手を刺すだろう。あなたがこの草を入手できたなら、あなたは不死の生命を手に入れることができる。」 ギルガメシュはこれを聞くや否や、取水口(深淵(アプスー)への入り口)を開き、重い石を自分の両足に縛り付けた。石が海(アプスー)の底へと引き込むと、そこにその草を見つけた。彼は草を取ったが、トゲは彼の手を刺した。彼は重い石を両足から外した。海(アプスー)は彼を岸辺へと押し返した。 ギルガメシュはウルシャナビに向かって言った。 「ウルシャナビよ、この草は特別な草だ。人間はこれでもって生命を新しくするのだ。私はこれをウルクへ持ち帰り、老人にそれを食べさせ、試してみよう。その草の名はシーブ・イッサヒル・アメール(注:「老いたる人が若返る」の意)という。私もそれを食べて若かった頃に戻るとしよう。」 (略)彼らは夜の休息をとった。するとギルガメシュは水が冷たい泉を見つけた。彼は水の中へ降りて行って水浴をした。一匹の蛇が草の香りに惹き寄せられた。水の中から忍び寄り、草を取った。戻って行く時に、抜け殻を残して行った。そこでギルガメシュは座って泣いた。彼の頬を伝って涙が流れた。彼はウルシャナビの手を取って言った。 「ウルシャナビよ。何の為に、私は苦労をしてきたのだろう。何の為に、私の心臓の血は使われたのだろう。私自身は恩恵を受けることができなかった。大地のライオン(注:蛇の意)が恩恵を持っていってしまった。もう二十ベールも、流れがあの草を運び去ってしまった。」(後略)
※この「第十一の書板」の解説は、「バナナ型神話」の解説の一部です。
「第十一の書板」を含む「バナナ型神話」の記事については、「バナナ型神話」の概要を参照ください。
- 第十一の書板のページへのリンク