笑府とは? わかりやすく解説

笑府

読み方:ショウフ(shoufu)

分野 咄本

年代 江戸中期

作者 墨憨斎(馮夢竜)〔編〕、懞懂斎〔訳〕


笑府

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/10/29 16:22 UTC 版)

笑府』(しょうふ)は、中国朝末期に、馮夢竜(ふう むりゅう[むりょう])[注 1]が編纂した笑話集である。

馮夢竜は、当時の蘇州府(現在の江蘇省東南部)の有名な文士であり、蘇州府長洲県に生まれ、1630年崇禎3年)に県の貢生となり、建寧府寿寧県の知県(県知事に相当)になった。明朝滅亡の際に殉死したと言われている。

概要

「笑府」とは「笑い話の倉庫」くらいの意味で、あらゆるジャンル・貴賎不問の笑い話を13巻に纏めた物であり、当時の庶民の生活や風俗、習慣を知る上で重要な資料である。

通俗文学の書籍ではよくあることだが、『笑府』も中国本土ではの時代の初めに散佚し、一冊も残らなかった。しかし日本で各種の和刻本が刊行されたおかげで、完全な散佚を免れた。

20世紀に入り、中国本土で過去の通俗文学に対する再評価の機運が高まると、和刻本の『笑府』が日本から中国に逆輸出された。例えば周作人魯迅の弟)も『苦茶庵笑話選』(1933年)のなかで、日本の藤井孫兵衛刻本『笑府』によって173話を中国に紹介した。

中国古典笑話をまとめて紹介した古典的労作である王利器『歴代笑話集』の口絵写真でも、『笑府』だけは、返り点を施した日本の藤井本の写真を使っている。清の乾隆代に出版された『笑林廣記』には『笑府』の笑話が改竄された形で再録されたが、その質は周作人が『苦茶庵笑話選』の序文で「下等の書」と評するものであった[1]

笑府は、各部(各巻)の最初に馮夢竜(筆名として「墨憨子」(ぼくかんし・ぼっかんし)を使用)が「墨憨子曰く……」と各部内容の簡単な説明をしている。

内容

  • 笑府序 (序文)
  • 巻一 古艶部(金持ち)
  • 巻二 腐流部(腐れ儒者)
  • 巻三 世諱部(貧乏人)
  • 巻四 方術部(医者・易者)
  • 巻五 広萃部(僧侶・道士)
  • 巻六 殊稟部(奇人変人)
  • 巻七 細娯部(娯楽)
  • 巻八 刺俗部(俗物)
  • 巻九 閨風部(性)
  • 巻十 形体部(身体)
  • 巻十一 謬誤部(間違い)
  • 巻十二 日用部(衣食)
  • 巻十三 閏語部(その他)

特徴

大きな特徴は、ただ過去・現在の笑い話を集めただけでなく、編纂者が注釈や寸評、当時の時勢に応じて実際に使用した例が記載されている点である。

当時の名士・高官の逸話も挿入されており、倭寇豊臣秀吉の記述もある。

金瓶梅』にも笑府からの引用がある。

十三巻中に登場する名士・高官・偉人

主な人物を紹介する。

訳本

風来山人(平賀源内の変名)刪訳『刪笑府』より。「まんじゅうこわい」の原話の部分。

日本においては江戸時代に伝わり、1768年明和5年)から明和6年の間に相次いで訳本が3種出版されている。その内の1冊『刪笑府』(明和6年序)は風来山人こと平賀源内が抄訳した訳本であるとされる[2]。笑府訳本とされているものは以下の通り。

  • 半紙本『笑府』 - 京本。過去には大本とも呼ばれていた[3]。明和5年9月。日本初の訳本であるが、176話を収録するがそのうち25話が『笑府』ではなく『笑林廣記』由来、題名を取り払い、原本での部をすべて崩し、さらには2話を1話に仕立てる等、訳本としては不備が指摘されている[4]
  • 小本『笑府』 - 江戸本。明和5年10月。80話を納めるが5話は別の笑本からのもの。順番はほぼ原本に沿っており、加えて国字解がついている。裏に後篇近刻となっているが出版されなかった。
  • 『刪笑府』 - 江戸本。明和6年の序をもつ。風来山人刪訳との記述があるが、後期のものは陳奮翰(源内の友人でもあった大田南畝のこと)となっているものがある。70話を納める。題名等は原本に準ずるが、順番は原本に沿っておらず、古艶部等4部からは1話もとられていない。

なお、笑府の中から落語や小咄に多くが使われているが、原本経由のものは少なく多くは訳本経由であったことが指摘されている[5]。それらの中には「まんじゅうこわい」(原話は巻12・日用部「饅頭」)のように、原作をほとんど流用して作られた落語もある。

脚注

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注釈

  1. ^ 1574年万暦2年) - 1645年順治2年)、は猶竜、は墨憨斎・竜子猶。

出典

  1. ^ 馮 & 松枝 1983b, p. 257.
  2. ^ 馮 & 松枝 1983b, p. 260.
  3. ^ 武藤 1970. など。
  4. ^ 武藤 1970, p. 26.
  5. ^ 武藤 1970, p. 36.

参考文献

関連項目


笑府

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/07 00:18 UTC 版)

張飛」の記事における「笑府」の解説

明末期の笑話集『笑府』に、楊貴妃張飛登場する笑話がある。 ある男が、野ざらしになっていた骸骨を見つけ、気の毒に思って供養してやった。その晩、男の家の戸を叩く者があり、「誰だ」と聞くと「妃(フェイ)です」と答える。さらに訊ねたところ、「私は楊貴妃です。馬嵬殺されてから葬られるともなく野ざらしになっていたのを、あなたが供養し下さいました。お礼夜伽をさせて下さい」と答え、その晩、男と夜を共にした。これを聞いて羨んだ隣の男が、野原探し回ってやはり野ざらしになった骸骨を見つけ、供養したところその晩やはり戸を叩く者があった。「誰だ」と聞くと「飛(フェイ)だ」と答える。「楊貴妃かい」と聞くと「俺は張飛だ」という答え仰天して「張将軍我が家に何ゆえのお越しで」と訪ねると、張飛曰く「俺は閬中殺されてから、葬られるともなく野ざらしになっておったのをお前に供養しもらった。その礼に夜を共にさせてくれい」。これが日本翻案されたのが、落語野ざらしとなった

※この「笑府」の解説は、「張飛」の解説の一部です。
「笑府」を含む「張飛」の記事については、「張飛」の概要を参照ください。

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