空想から工学へ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/10 17:01 UTC 版)
「ゲーム理論#2000年代」も参照 ゲーム理論が普及する以前の支配的パラダイムであった新古典派経済理論は自由市場を是とし政府による市場介入を不要と主張しており、当初は経済理論が工学的に実用化されるとは予想すらされていなかった。他方、ゲーム理論は効率的な資源配分を実現するために政府が制度設計を通じて人々に適切なインセンティブを提供する必要性を示唆していた。 一部のゲーム理論の成果は実験的手法を通じてその再現性が科学的に確認され、1990年代から2000年代にかけて積極的に現実の制度設計に応用され始めた。このような経済学史上の画期的なパラダイム転換は、カール・マルクスやフリードリヒ・エンゲルスの「空想から科学へ」というスローガンになぞらえて「空想から工学へ」と称される。経済理論の工学的応用の中でも特に、既存の市場が解決できない問題を解決するために科学的手法を用いて人工的に市場を設計することを試みる研究分野は「マーケットデザイン」と呼ばれる。米国では1994年に連邦通信委員会がゲーム理論家に設計させた周波数オークションを実施し70億ドル以上の収益を実現すると、ゲーム理論は「全オークションの母」としてメディアから賞賛された。その後、周波数オークションは日本を除くほぼ全てのOECD加盟国によって導入され、数兆円規模の政府収益を生んでいる。周波数オークションの成功を機にマーケットデザインは積極的に実用化されており、その応用分野は研修医マッチングプログラム、学校選択制、腎臓交換プログラムなど多岐に渡る。 ただし日本は先進国の中では例外的にマーケットデザインの実用化が進んでおらず、特に周波数オークションの導入に対して政府は消極的である。日本ではテレビ局や電気通信事業者などに対して総務省(旧郵政省)の官僚が裁量的に無償で周波数の使用権を配布する比較聴聞方式が依然として行われている。このような日本政府の姿勢に対しては、通信事業と総務官僚との間の天下りのような私的動機に基づく官民癒着が指摘されている。
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