真珠湾攻撃予告説について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/26 07:24 UTC 版)
「ドゥシャン・ポポヴ」の記事における「真珠湾攻撃予告説について」の解説
ポポヴが回想録で記しているところによると、7月にドイツ情報部から「アメリカに渡ってスパイ網を組織せよ」という指令を与えられた際に、「質問状」と呼ばれる調査項目を記した書類を見せられる。この中に真珠湾に関する項目が含まれていた。ポポヴはイエプセンが「日本が、タラント海戦の情報をドイツに依頼してきた」と話していたのを思い出し、日本がタラントにならって真珠湾を攻撃するのではないかと考えたという。質問状は書類のほかにマイクロドット(英語版)と呼ばれる微細なマイクロフィルムとして手渡され、このマイクロフィルムは8月に渡米したポポヴの手でアメリカに運ばれた(書類はイギリス情報部に流されて先に翻訳されている)。ポポヴはアメリカに到着するとイギリス情報部の仲介でFBIのニューヨーク支部長と接触し、その場でマイクロドットを渡すとともに、「日本が真珠湾を奇襲する可能性がある」と告げたという。ニューヨーク支部長はポポヴの話の判断を留保し、フーヴァー長官の指示を仰がねばならないと返答したとポポヴは記している。9月にFBIはマイクロドットから質問状の内容を解読した。それからまもなく、フーヴァーはニューヨーク支部を訪れてポポヴに面会し、ポポヴの派手な私生活を非難した。ポポヴはこのとき、「私はいつ、どこで、どのように、誰があなたの国を攻撃するかについて、正確で重大な警告を持ってきました」と話したが、フーヴァーは言葉に耳を貸さずに罵ったと記している。 この内容について、公開されたFBIなどの文献から検証した今野勉は、以下の点を確認した。 ドイツからポポヴが手渡された質問状には確かに真珠湾の米海軍基地に関する内容が含まれているが、質問状全体としてはアメリカのイギリスへの援助能力が主眼である。 フーヴァーはホワイトハウス宛の報告書の中で、情報伝達手段としてのマイクロドットには言及しているが、質問状の内容にはほとんど触れていない。フーヴァーは、1939年に日本の諜報活動の監視と「敵性」日系人をチェックする目的でハワイにFBI支部を開設しており、「真珠湾を日本が攻撃する」という情報について無関心であったことは考えにくい。 FBI側は質問状にあった調査項目について、陸海軍の情報部と協力して偽情報を作成した上でポポヴに手渡し、フーヴァーの言葉とは裏腹に二重スパイとしてポポヴを最大限利用しようとしていた。フーヴァーがニューヨーク支部に送った手紙によると、海軍が作成した「新型魚雷防御網に関する資料」についての偽情報をポポヴに渡したのは11月初旬以降であるが、ポポヴが真珠湾に関する情報の入手を急ぐよう迫られていた形跡はない。 ポポヴは、日本が同盟国であるドイツ経由で真珠湾の情報を得ようとしていたと考えたというが、日本海軍は独自にハワイの情報を入手する活動をおこなっており、海軍の関係者もドイツへの情報提供依頼を否定し、吉岡忠一元参謀はドイツ海軍を信頼していなかったのでそういう極秘情報の提供を依頼することはなかったと証言している。また、タラント空襲についてもローマの日本大使館駐在武官から直接情報を入手している。 これらを総合して、ポポヴが真珠湾攻撃をアメリカ側に予告したというのは「回顧録の中であたかもそうしたかのようなでっちあげをやった可能性がきわめて大きい」と今野は結論づけた。 また、ドイツ情報部が依頼した真珠湾の調査について今野は、アメリカと開戦した場合のUボートによるアメリカ船舶への攻撃のためのものではないかと記している。
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