留保の許容性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/23 15:12 UTC 版)
留保は条約の普遍性を促進するが、留保を際限なく認めてしまうと権利義務関係が各当事国間でそれぞれ異なるという事態を招来し、条約の一体性を著しく損なうことになる。そこで、どのような留保が認められ、どのような留保が認められないかが問題となる。 第1次世界大戦後には主に、国際連盟で用いられたもので、全ての当事国が全会一致で留保を受諾することを必要とするという連盟慣行(全当事国一致の原則)と、留保に異議を申し立てる国があっても、留保国と異議申し立て国との間では条約関係が成立しないが、留保国と留保受諾国の間では条約関係が成立するという汎米機構方式が用いられた。 条約の一体性を重視するか(連盟慣行)条約の普遍性を重視するか(汎米機構方式)という違いがあるものの、両者とも留保を受諾するか異議を申し立てるかは各当事国の裁量であり、客観的な基準がなかった。 しかし、ジェノサイド条約留保事件において国際司法裁判所(ICJ)は、留保の許容性は留保と条約の趣旨・目的との両立性、すなわち、留保を付した結果それが条約の趣旨及び目的を失わせるかどうかによって判断されるという「両立性の基準」を採用した。これは条約法条約の規定にも受け継がれ、条約法条約は「当該留保が条約の趣旨及び目的と両立しないものであるとき」は留保を付することができないとした。ほかにも、上述した通り、条約が留保を付することを禁止している場合、条約が特定の留保のみを付することができると定めている場合で、その特定の留保に該当しないときにも留保を付することができない。 ただし、条約法条約の規定ぶりを見ると、「両立性の基準」は留保国のみが留保を付する際に拘束されるのか、それとも留保国以外も拘束されるのか(留保が「両立性の基準」に反するときに異議を申し立てる義務があるのか)はあいまいである。また、「両立性の基準」を採用したといっても、留保が「両立性の基準」に反するかどうか判断するのは各当事国に委ねられている。そのため、仮に留保国以外も「両立性の基準」に拘束されるとしても、実際に「両立性の基準」に反する留保が一応成立した場合その留保は無効になるのか、留保受諾国と留保国との関係では例え「両立性の基準」に反する留保であっても有効なのか、という問題がある。前者の立場(「両立性の基準」に反する留保は無効)を許容性学派、後者の立場(「両立性の基準」に反する留保であっても有効になり得る)を対抗力学派という。 条約の留保は、本来の意義を失うまたは減じる可能性から国内外から批判が寄せられることがある。たとえば1993年6月25日に採択されたウィーン宣言及び行動計画は第1部第26項においてすべての国に可能な限り留保を避けるように要請している。この採択は各国の全権大使による採決(コンセンサス方式)によるものであり、批准を経ていない限り各国の国内法に法制化を義務づける性質のものではないが、一方で各国中央政府の行政責任者を拘束し、あるいは準拠することを世界人権会議から望まれる性質のものである。 現在、日本が留保を行っている例としては、国際人権規約(特に経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約)や人種差別撤廃条約などがあげられる。
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