煙突効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/10/17 01:39 UTC 版)
煙突効果(えんとつこうか、英: stack effect)とは、煙突の中に外気より高温の空気がある時に、高温の空気は低温の空気より密度が低いため煙突内の空気に浮力が生じる結果、煙突下部の空気取り入れ口から外部の冷たい空気を煙突に引き入れながら暖かい空気が上昇する現象を言う[1]。
火力発電所などの煙突はこの効果を用いて、燃焼で生じた高温の二酸化炭素ガスを速やかに排出すると共に空気取り入れ口から外部の酸素が多い空気を取り込む。またオフィスビル等では、太陽やオフィス機器から発生する熱で温められた室内に、煙突効果を利用して外部の冷たい空気を自然換気で取り込むアトリウム型建築も設計されており、これにより建物のエネルギー消費量を 10 - 30 %削減できると期待されている[2]。他方、煙突効果が高い建物では、火災時に煙突となる通路を通して炎や煙が広がり易くなるため、その対処が重要である[1]。
原理

煙突効果は、充分な重力が作用している場において、以下の3段階で説明される。
- 空気の密度は、温度が高いほど低くなる。煙突内は外部より高温のため、外部より空気の密度が低下するため浮力が生じる。
- この浮力により煙突下部で ΔP の圧力差が生じる。
- この圧力差により、煙突下部の空気取り入れ口から毎秒 Q の冷たい空気が給気され、同時に暖かい空気は煙突内を上昇して排気される。
浮力の発生
シャルルの法則(ゲイ=リュサックの法測とも言う)によると、一定重量のガスの体積
輸送装置
- 蒸気機関車
- 石炭を燃やし、その熱で発生させた高い運動エネルギーを持った水蒸気を動力源とする蒸気機関車の場合、トンネル、橋、プラットホームや信号設備などの高さや位置などによる制限である車両限界ため、火力発電所や工場のように煙突を高くすることができない。そこでベルギーの技術者リゲインは1925年に、煙突を2本に増やして煙突面積を2倍とし、同じ排出ガス量で煙突高さを 1/√2 にする事ができた(排出ガス量の式より)(アンドレ・シャプロンの項参照)。
- 蒸気機関車では石炭などを焚いて走るが、この燃えカスが煙と共に煙突から飛び出し、それが沿線に火災を発生させる原因となる。これを防止するため煙突上部に煙突効果で回る回転式火の粉止を設けた機関車が作られた(集煙装置)。
- 蒸気船
- 石炭を燃やし、その熱で発生させた高い運動エネルギーを持った水蒸気を動力源としてスクリューや外輪を回して進む蒸気船の場合は、煙突を高くし過ぎると船体のバランスが悪くなるため、ある程度以上には煙突を高くすることができない。そのため複数の煙突を設置する構造の船も存在した。
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自然エネルギー

ソーラーアップドラフトタワー発電では大地を非常に大きな温室で覆う。そこに太陽が当たると温室内の温度が上昇する。その温室に高い煙突を設置すると、煙突効果により煙突内に上昇気流が起こり、その上昇気流を利用して風力発電機を回し発電する方式が、ソーラーアップドラフトタワー発電である。1982年ドイツ政府の資金提供を受け、スペインのマンサナレスで初のソーラーアップドラフトタワー発電の実験施設が作られ、約8年間にわたって実験データが収集された。この施設の仕様は、煙突の直径10 m、高さ195 m、温室床面積は46000 m2で、発電能力は最大電力出力時で約50 kWであった[12]。尚、日本ではソーラーチムニーと言う名称も使われている。
煙突効果と火災
建築物で上下方向に空気が流れられる空間があり、その下部に空気を供給できる構造であれば、その建築物部分は煙突と同じ構造となり、同じ機能を有する事になる。このため、この部分で火災が発生すると煙突効果でそれが煙突化して燃焼が促進する。しかも、煙は人間の駆ける速度より早く進むため、人間が逃げ切れず大災害になる事がある。1972年の千日デパート火災では階段、空調ダクト、エレベーターシャフト部分が、2000年のオーストリアケーブルカー火災事故ではケーブルカーのトンネルが、2003年の大邱地下鉄放火事件では地下鉄のトンネルと駅地上部への階段が[13]、それぞれ煙突構造を構成し火災の被害を大きくした事が知られている。
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その他
- スモークジャック
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スモークジャックの図。煙突上部に置かれた羽根車が回転し、それが歯車を通して外部に動力を伝える。 - 暖炉で火を焚くと煙突効果で上昇気流が生じ煙が上っていくが、この上昇気流で羽根車を回転させ、その回転力を動力として使用する装置がスモークジャックである。この装置の1つに、暖炉で肉を焼く時、この動力で肉を回転させ、全面が均一に焼けるようにした機械をダビンチが発明した。この肉の全面を均一に焼くためのスモークジャックは、チムニー・ジャック(Chimney jack)と呼ばれる[14]。
- 走馬灯
- 日本ではお盆などに使う灯篭で表面の影絵模様がゆっくり回転する走馬灯は、中心に蝋燭を置き、その外側に表面に絵を描いた円筒形で回転可能な火袋(紙製の円筒)と、そのさらに外側に固定された火袋を設けた提灯の1種である。蝋燭に火を燈すと、その熱で火袋の中で煙突効果が生じ、回転可能な火袋が回る、同時にこの火袋に描かれた絵の影が、外側の火袋に動いているように写し出される。なお、類似の装置として、蝋燭の代わりに白熱電球を設置し、白熱電球によって発生した熱を利用して、同様の動作をさせた物も存在する。
脚注
注釈
出典
- ^ a b c “建築設備基礎 26章 煙突効果”. setukiso.googlecode.com. 2012年7月10日閲覧。
- ^ “Natural Ventilation”. Natural Renewable Energy Laboratory. 2012年7月10日閲覧。
- ^ “建築設備基礎 4章 熱の基本法則”. setukiso.googlecode.com. 2012年7月10日閲覧。
- ^ 大竹伝雄『化学工学概論』丸善株式会社、1988年11月。ISBN 4-621-03318-2。
- ^ 青木 国夫『江戸科学古典叢書13巻 養蚕秘録』恒和出版、1978年。
- ^ 日本民俗建築学会『民俗建築大辞典 屋根の装飾の項』柏書房、2001年11月。 ISBN 4-7601-2157-9。
- ^ “窓廻り空調システム”. 2012年7月10日閲覧。
- ^ “アトリウムの世界的大流行”. 2012年7月10日閲覧。
- ^ “省エネルギー・火災安全性からみた煙突効果の制御と利用に関する研究”. 2012年7月10日閲覧。
- ^ “鹿島火力発電所敷地内に設置する緊急設置電源”. 2012年7月10日閲覧。
- ^ “日本の窯の歴史”. 2012年7月10日閲覧。
- ^ Schlaich J (1995). The solar chimney. Stuttgart, Germany: Axel Menges
- ^ “大邱の地下鉄火災”. 2012年7月10日閲覧。
- ^ “Da Vinci's chimney jack”. 2012年8月22日閲覧。
関連項目
外部リンク
煙突効果
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/12 09:16 UTC 版)
「ソーラー・アップドラフト・タワー」の記事における「煙突効果」の解説
煙突の中に外気より暖かい空気があると、高温の空気は密度が小さいため、煙突下部の圧力は外部より低くなる。このため煙突下部の空気取り入れ口から外部の空気が煙突に入り込み、煙突内部の暖かい空気が上昇する。この現象を煙突効果という。 この効果により煙突上下に Δ P = C ⋅ h ( 1 T o − 1 T i ) {\displaystyle \Delta P\;=\;C\,\cdot h\;{\bigg (}{\frac {1}{T_{o}}}-{\frac {1}{T_{i}}}{\bigg )}} の圧力差が生じる。更に、この圧力差によって煙突内部には下記速度の風が流れる。 u o = 2 g ⋅ h ⋅ T i − T o T i {\displaystyle u_{o}\;=\;{\sqrt {2\;g\cdot h\cdot {\frac {T_{i}-T_{o}}{T_{i}}}}}} また、この風の持つエネルギーは風速の自乗に比例する事からこのエネルギーは煙突の高さ h に比例することが分かる。 記号 意味と 単位 ΔP: 生じる圧力差, [Pa] uo: 煙突内の風速, [m・s-1] g:重力加速度 [9.80665 m・s-2] C: 定数:3463, [kg・K・m-1・s-2] h: 煙突の高さ, [m] To: 外気の絶対温度, [K] Ti: 煙突内平均温度, [K] 実例1981年にスペインのマンサナーレスに作られたソーラー アップドラフト タワーの試験施設の実測データでは、煙突内外の温度差:Ti - To = 20Kで、煙突高さは195メートルである。外気温度は明記されていないが23℃=300Kとすると圧力差ΔPと風速uoはそれぞれ圧力差 = 144 Pa = 1.44 ヘクトパスカル風 速 = 11 m・s-1 = 時速40kmとなる。
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