炭化物の析出
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/13 15:55 UTC 版)
初期の考察では、下部ベイナイトの生成においては界面エネルギーを最小化するように、オーステナイトとの界面から直截炭化物を析出すると考えられていた。バーデシア(Bhadeshia)は変態中にフェライトから炭化物が析出することを確認している。 焼戻しマルテンサイトと同様に、ベイニティックフェライトプレートの内部にプレートの方向と約60°の角度に同じ結晶方位を持つ炭化物が析出する(図8を参照)。その一次相は常にε炭化物(Fe2.4C)であり、長い時間をかけてセメンタイトとなっていく。相界面後方への炭化物析出は、フェライト中の炭素の飽和状態とミクロ組織の自由エンタルピーを低減させる。そして、炭化物の形状はひずみエネルギーが最少となる状態に対応し、その数及び分散状況は下部ベイナイトの良好な機械的性質を担う。 ベイニティックフェライトプレートに対して60°の角度で析出したε炭化物は、変形双晶の生成を促すと推察されてきた。しかし、ベイニティックフェライトプレート中に析出した炭化物の方向と双晶の結晶方位の間に関係は認められず、そのため、炭化物の析出が配向のエネルギー的な原因であると推察される。 しかしながら、変形でできたオーステナイトの双晶を超えてベイニティックフェライトプレートが成長する。剪断説では、これらのオーステナイトの双晶は相界面前方のオーステナイトを剪断させて、Bcc格子に『変態』させ、変態中の格子欠陥に炭化物が析出すると考える。なぜ炭化物が双晶面でなくフェライトの晶癖面に析出するのかは、このように説明される。 拡散説によれば、炭化物の生成機構はスパノス(Spanos)及びファン(Fang)、アーロンソン(Aaronson)らにより、図9に示す模式図にて次のように説明される。細長いフェライトの核(1)が生じた後、次の段階として二次的な核生成がフェライトの核から起こる(2)。フェライトに囲まれたオーステナイトは、(固溶限の違いから)炭化物になるまでフェライトから拡散してきた炭素を濃縮する(3)。最後の段階として、炭化物の周りの空隙は―炭素鋼の場合は―更なるオーステナイトの変態により埋められる。一つのフェライト中でユニット間の既存の方位差を補うように小傾角境界が移動して、それ以前の境界がほぼ見えなくなる(4)。
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