法的基準説
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/10/06 06:26 UTC 版)
法的基準説は、 日本国憲法が租税法律主義を採用していることを強調している(30条・84条)。この租税法律主義は租税法上の課税所得の概念について、法人税法等の租税実体法自らに課税要件を明確に法定すること(課税要件明確主義・課税要件法定主義)を要請する。そのため、租税実体法たる法人税法は、単に企業利益の修正規定ではなく、法的に課税所得を把握するための根拠規定であり、課税要件を明確に定め、何が課税所得であるかを決定する。 法人税法は法人所得を正面から定義せず、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」(法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)1項)と、益金と損金との差引概念(DeductionConcept)によって定義している。従って、法人の課税所得とは何かを探求するには、法人税法における「益金の額」「損金の額」とは何かを明らかにする必要がある。 また法人に法人格が付与された場合、企業利益(配当可能利益)の測定のために会社法による会社利益の計算(企業会計)に従う必要がある。配当可能利益の測定は資本充実、株主・会社債権者の保護という要請によって貫かれているため、租税公平主義の原則に構成されている税法上の法人所得概念とは本質的な差異がある。 所得概念(経済的概念)が法人税法(租税法)に取込まれて課税要件とされている以上、法的事実としての「所得」の定義は法的視角から論及されるべきである。法的な判断を離れた所得概念の考察は租税法(法律)に対する解釈ではなく、租税法律主義の要請に反する。さらに、企業活動は既存の法秩序を超えて無限的に拡大されていく傾向にあり、単に 企業利益(経済的概念)を法人税法上の所得と捉えることは、企業活動の法的安定性・予測可能性を侵す可能性もあって妥当ではない。 なお、法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)4項「第2項に規定する当該事業年度の収益の額及び前項各号に掲げる額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従つて計算されるものとする」の解釈について、「一般に公正妥当と認められる」とは、健全な一般社会通念に照らして公正妥当と評価できる基準(健全な簿記会計の習慣)かつ法規範性を有するものに限って会計処理基準として所得を計算することとすることを確認した規定(確認規定)で、この規定によって創設されたもの(創設規定)ではない。
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