植物の繁殖戦略と果物
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/17 16:35 UTC 版)
「果物」は動物が食べたがる果実である。「果物」と言われる果実は、生物学的な果実の分類の上ではいくつかの類型にまたがるが、いずれにしても、一般的な植物組織よりも柔らかく、糖分、ビタミンCなどを多く含む部分を持つ。また赤や黄色に着色する例が多い。 これは植物の繁殖に関する戦略として、動物に食べさせ、それによって種子散布を動物に担わせる、と言う方針によっている。植物は移動できないため、種子形成の際にこれが移動することは、花粉媒介と並んでその分布拡大や個体群の維持において極めて重要である。そのために様々な戦略をとる植物が存在するが、動物に運ばせるのはその代表的な方法の一つである。そのための具体的な方法の一つが種子およびその周辺に動物の食料として魅力的な性質を与えることで、動物がそれを食べ、あるいは食べる目的で輸送を担う、と言うものである。種子そのものを食料とする例(ドングリなど)もあるが、それよりは周辺部を可食としたほうが種子の犠牲は少ない。これが果物というあり方である。 植物の一般的な組織、例えば葉や茎は、生きた原形質を含むから、それなりにバランスの取れた食料であり得る。しかし細胞壁がセルロースという丈夫な成分で作られていること、セルロースそれ自体もカロリーは高いものの消化の困難なものであることなど、植物を餌とするのは難度が高く、専門的な食植者は様々な特異な適応的な形質を持つのが普通である(すりつぶす歯、複数に分かれた複雑な消化管など)。それに対して果物の可食部は一般的な植物組織より、遙かに動物に利用されやすくなっている。 (やや目的論的な説明としては)「果物に糖分が多いのも、消化酵素が含まれるのも、動物がそれを利用する場合の利便を図っている(=目的としている)ものであり、それによってより多くの動物を引き寄せることを目指している」と説明してもよい。また(目的論的な説明を避けて)「さまざまな性質の果実をもつ植物が(突然変異や さまざまな交配によって)生まれたが、自然選択の結果、動物が利用しやすい果実をもつ植物が、結果として、より多く生き残り、その形質 が/も 残った。」などと説明してもよい。「植物にとってはそのような果実を持つことはコストがかかり損失も生じるが、動物を誘引することで種子散布をより効率よく行うための投資である」と説明してもよい。果実が熟するに連れて赤や黄色などに着色するのも、動物にとって目立つようになり、食べ頃を知らせる信号の効果を持っている。 果物が「美味しい」と動物にとって感じられるのは、その味が動物全般の好みに合致していることによる。人類が果実を好むのも、植物のこの戦略に 乗せられたもの/乗ったもの と考えてもよい。
※この「植物の繁殖戦略と果物」の解説は、「果物」の解説の一部です。
「植物の繁殖戦略と果物」を含む「果物」の記事については、「果物」の概要を参照ください。
- 植物の繁殖戦略と果物のページへのリンク