杭殺刑
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/26 04:31 UTC 版)
詳細は「苦しみの杭」を参照 新約聖書学の一部に、十字架の高さは人の背の高さから少し高い程度に過ぎなかったが、後の時代には、イエスを神と理解する信仰から、十字架刑の残忍性が払拭されるようになり、神の栄光を表すという心情から、高く掲げられるように変わってきた、という説がある。 またキリスト教系の新宗教であるエホバの証人はキリストの磔刑が「一本の杭(苦しみの杭)」で行われたと主張している。彼らが発行した『参照資料付き新世界訳聖書』の付録において、「苦しみの杭」の根拠としてカトリック教会の学者ユストゥス・リプシウス(1547-1606年)の著書『デー・クルケ・リブリー・トレース』を引用しており、その本の複写を掲載している(ただし同書には十字架につけられた人の絵も掲載してあり、p46にて『十字架こそキリストを処刑するのに使われた刑具である』とリプシウスは説明している)。 上記のような考えに対し、新約学者Franceは、マルコの福音書15章36節「海綿に酸いぶどう酒を含ませて葦の棒に付け」「エリヤが彼を降ろしに来るか」という記述から、棒につけなければならない程の高さがあったこと、また「降ろす」という単語の接頭辞 κατα は「(ある程度の高さ)から」という意味があるため、縦木は高く、イエスが負わされたのは横木であった、つまり文字通りの十字架刑であったと主張している(R・T・フランス)。また大野キリスト教会牧師であり、「JWTC(エホバの証人をキリストへ)」主宰者の中澤啓介は著書『十字架か、杭か』において、エホバの証人が論点とする「イエスの時代のギリシャ語『スタウロス』」が「十字架」であったという考古学的証拠が多数発見されており、1~3 世紀のキリスト者の墓地に十字架が刻まれていることが、考古学的発見から明らかになっている、と述べている。 神学者の佐藤研はイエスの十字架については「十字型」ではなく「T字型」であったろうとの見解を記し、本来処刑道具であることを示すためにスタウロス(十字架)の訳語として「杭殺刑」「杭殺柱」にしてはどうか、という提言を行なっている。 一方で、聖書学者の秦剛平は、エステル記でハマンが処刑された際に、「木柱に吊るす」を意味するアナスタウローが用いられており、これが「短い、横棒と長い縦棒を組み合わせた十字形の木柱ではなく、あくまでも一本の棒である」ことを指摘した上で、イエスの処刑については、「何百本の木柱がエルサレムのアントニアの塔(中略)の中に保管されていたと想像するが、十字架状のものではかさばってしょうがない」「彼らを柱に吊るすのであれば、それは保管上からしても一本の木柱であったと想像するのが妥当である」 と結論づけ、イエスは十字架にかけられたのではなく、一本の木柱に吊るされたと理解している。
※この「杭殺刑」の解説は、「キリストの磔刑」の解説の一部です。
「杭殺刑」を含む「キリストの磔刑」の記事については、「キリストの磔刑」の概要を参照ください。
- 杭殺刑のページへのリンク