春泥や妻への刺身両掌にのせ
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春 |
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評 言 |
大類林一(1924年~1996年)は、山形県尾花沢市に生まれ、二十代後半より郷土史を研究、特に芭蕉十泊のまち尾花沢の「おくのほそ道」研究に力を注いだ。加藤楸邨との縁を得て「寒雷」同人として、また山形県現代俳句協会会長として活躍した。 大類林一の句は、知性に依った句よりも風土が強く出ている句が多いと思う。雪深い東北に住んでいる人間にしては、豊かな人間関係に恵まれており、これも俳句の縁に依るものであろう。だから、地域性に捕らわれない句も多いが、やはり存在の根拠としての風土性が強く出ていると感じる。 降雪期の尾花沢の暮しは、時に過酷である。それだけに春の訪れは格別の喜びがある。 掲句は、冬でも交通の便がようやく良くなった昭和四十年代に作られた句である。春の気配が確かな春泥の頃、刺身を買って妻と雪の暮しの疲れを癒そうというところだが、前書きには「妻、入院」とある。妻をいたわる気持ち、切なさをぎりぎりのところで抑えている句であろう。 この句は一読して明るい。だが、底辺には様々な哀しみを抱えながら、風土を生きようとする作家の魂が見える。 |
評 者 |
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備 考 |
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