日本法における環境訴訟の訴訟要件
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/14 06:05 UTC 版)
「自然の権利」の記事における「日本法における環境訴訟の訴訟要件」の解説
開発阻止のためには行政訴訟がしばしば提起されることになる。日本国憲法下の日本においては、司法権にもとづく裁判の対象は「法律上の争訟」(裁判所法3条)、すなわち「法令を適用することによって解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争」が原則であるとされている。個人の法的権利義務に関わらない客観訴訟は極めて限定的な立法例だけで、アメリカ合衆国における「絶滅の危機にある種の法(ESA)」のような市民訴訟条項を持つ特別法は無い。 まず、開発許可処分などの適法性を争う行政訴訟として、各種の抗告訴訟が提起されることがある。しかし、行政事件訴訟法の規定上も、判例による解釈上も、当該個人の法的権利義務に関する訴訟か(つまり原告適格があるか)は厳格に判定されてきたそのため、環境に関する行政訴訟を提起しても、原告適格が欠けるとして、開発許可の違法性の有無などの本案の判断をするまでもなく却下判決となる事例が多かった。近時は関連法規の趣旨や目的を考慮した解釈を裁判所が行うようになったことや、これらの判例の動向を踏まえた行政事件訴訟法の平成16年改正(9条2項の新設)により、原告適格は実質的拡大が図られてはいる。これにより比較的にせよ抗告訴訟における原告適格は認められやすくなっているものの、なお無制限になったわけではない。 また、客観訴訟としての行政訴訟である住民訴訟が、開発阻止の法的手段に利用される例も多く見られる。住民訴訟であれば、当該自治体の住民でありさえすれば原告適格が容易に認められる。しかし、住民訴訟は自治体の予算執行の適正確保が本来の目的であることから、手段としては抗告訴訟とは別の限界がある。住民訴訟における裁判所の審査は、予算執行の適正を欠くかという観点から行われることになり、正面から環境への影響などを検討するわけではない。仮に予算執行として違法と評価された場合でも、自治体から首長や職員への損害賠償請求(4号請求)などにとどまり、事件の解決として適切であるか疑問がある。
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