新しい現象の可能性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/01/16 20:03 UTC 版)
「パイオニア・アノマリー」の記事における「新しい現象の可能性」の解説
パイオニア・アノマリーは、従来の理論で説明できない新しい現象を示している可能性があるだけに、幾人かの理論家がアノマリーに新たな物理的意味を見出そうとし、力や重力の理論の改変も含む新しい枠組みの理論や宇宙論に基づく解釈を用いて説明を行おうと試みている。 宇宙論との結びつきとして、単なる偶然か秘められた物理的意味があるのかはわらないものの、アンダーソンらはアノマリーとして測定されている加速度 aP = (8.74±1.33) × 10−10 m/s2 が、光速度 c とハッブル定数 H0 の積 cH0 に近いことを指摘していた。 しかし、aP = cH0 とした場合、ハッブル定数は H0 = 95±14 km/s/Mpc でなければならないが、その後WMAP衛星などによってハッブル定数の決定が進み、2010年現在ではH0 はこれより小さい 73 km/s/Mpc 程度となっている。 アノマリーを説明するために数多くの非標準的な物理理論との対照が行われ、また新たな理論が提示されてきた。 まず、アノマリーが直接に我々の重力に関する知識の不完全さを示すものと考え、その修正によって説明しようとする様々な理論が検討された。 修正ニュートン力学 (MOND) のパラダイムはアンダーソンの最初の報告でもパイオニア・アノマリーとの関係が示唆されていた。 これは、1980年代以降、銀河の回転曲線問題を説明するために、モルデハイ・ミルグロムやヤコブ・ベッケンシュタインが提案していたもので、通常のように暗黒物質を仮定する代わりに、微弱な加速度ではニュートン力学が示すものよりも相対的に小さな力しか必要としないとしたものである。 他にも、ジョン・モファット(英語版)が提案している修正重力理論、すなわち重力が湯川型のポテンシャルの項をもつとした理論や、一般相対論の通常のテンソル場に加え別の場を追加する理論などが検討された。 こうした説明は他の重力相互作用にもとづく説明と同様に他の惑星にその効果が現れなければならないという困難があるが、ミルグロムによれば修正は重力相互作用ではなく慣性に対してのものだと解釈できるとする。 一方、パイオニア・アノマリーと膨張宇宙との関係も検討された。 こうした議論では、丁度、19世紀のフーコーの振り子が地表が慣性系ではないことを明瞭に示したように、アノマリーはいわば太陽系に対する宇宙スケールでのフーコーの振り子を示しているものであるとみなされた。 特に、パイオニア・アノマリーの公表は、Ia型超新星 (w:type Ia supernova) の観測によって宇宙の加速膨張が明らかになった時期と重なったため、この新たな宇宙像との関係について議論が過熱した。 単純には加速膨張の効果はアノマリーとは逆向きの作用をもたらす上、非常に小さなものであることが明らかとなっているが、定常宇宙論の一種であるヨーハン・マルリェーのESTから、時間依存の万有引力定数やスケール依存の宇宙定数、さらにf(R) 重力との関係まで多様な枠組みでの議論が継続している。
※この「新しい現象の可能性」の解説は、「パイオニア・アノマリー」の解説の一部です。
「新しい現象の可能性」を含む「パイオニア・アノマリー」の記事については、「パイオニア・アノマリー」の概要を参照ください。
- 新しい現象の可能性のページへのリンク