抗アンドロゲン作用および抗性腺刺激作用
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/04 19:52 UTC 版)
「エチニルエストラジオール」の記事における「抗アンドロゲン作用および抗性腺刺激作用」の解説
EEは、女性と男性の両方に強力な機能性抗アンドロゲン作用を示す。EEの抗アンドロゲン作用は、1)肝臓における性ホルモン結合グロブリン(SHBG)の産生を促進し、血中のテストステロンの遊離濃度と生理活性濃度を低下させる、2)下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)の分泌を抑制し、性腺からのテストステロンの産生を低下させる、というものである。EEを含む避妊薬は、抗アンドロゲン作用により、面皰や多毛症などのアンドロゲン依存性疾患の治療に有用である。 EEを含む避妊薬は、女性の循環SHBGレベルを2~4倍に増加させ、遊離テストステロン濃度を40~80%低下させる事が知られている。高用量のEEを含む避妊薬は、女性のSHBGレベルを5〜10倍にも増加させる。これは、妊娠中に起こるSHBGレベルの5〜10倍の増加に類似している。SHBGレベルの顕著な増加の為、EEを含む避妊薬の治療中は遊離テストステロンレベルが非常に低くなる。男性では、比較的低用量の20μg/日のEEを5週間投与したところ、循環SHBGレベルが150%上昇し、それに伴う遊離テストステロンレベルの低下により、循環総テストステロンレベルが50%上昇したという研究結果がある(アンドロゲンによる視床下部-下垂体-性腺軸への負のフィードバックが減少する事による性腺テストステロン産生のアップレギュレーションによる)。EEによる肝SHBG産生促進作用は、エストラジオール等の他のエストロゲンに比べて遥かに強く、これはEEが肝臓での不活性化に対する抵抗性が高いので、肝臓での作用が不均衡になっている為である。 エストロゲンは抗性腺刺激ホルモン作用を持つ物質であり、脳下垂体からのLHおよびFSHの分泌を抑制し、ひいては性腺のテストステロン産生を抑制する事が出来る。EEを含む高用量エストロゲン療法(英語版)は、男性のテストステロンレベルを約95%、つまり去勢/女性の範囲まで抑制出来る。術前のトランスジェンダー女性のホルモン療法に必要なEEの投与量は50~100μg/日である。この高用量は、特に40歳以上では深部静脈血栓症(VTE)の発生率が高く、使用すべきではないと言われている。男性の前立腺癌の治療に用いられるEEの投与量は、150~1,000μg/日(0.15~1.0mg/日)である。EEの投与量50μgを1日2回(合計100μg/日)投与すると、男性のテストステロン値を3mg/日のジエチルスチルベストロール経口投与と同等に抑制できる事が判明している。これは、テストステロン値を去勢域まで安定して抑制するために必要なジエチルスチルベストロールの最小投与量である。女性におけるEEの排卵抑制量は、プロゲスチンと併用しない単独投与で100μg/日となっている。しかし、20μg/日の投与量で約75~90%、50μg/日の投与量で約97~98%の排卵抑制効果がある事が判っている。また、別の試験では、50μg/日のEE用量で25.2%に排卵が生じた。 また、EEは低用量でも抗性腺刺激ホルモン作用は顕著である。15µg/日のEEという「非常に低い」投与量は、男性のLHおよびテストステロンレベルの抑制に必要な「境界線」の量とされており、30µg/日のEEの投与量で男性のLHおよびテストステロンレベルが「確実に」抑制されたという研究結果もある。しかし、他の臨床試験では、20µg/日のEEで男性のテストステロン値が50%上昇し(前述)、32µg/日および42µg/日のEEの投与量で男性のFSH値が抑制されたが、LH値には有意な影響が見られなかった。男性では、エチニルエストラジオール50μgとノルゲストレル0.5mgの複合経口避妊薬を9日間連日投与したところ,より強いテストステロン値の抑制が認められた。しかし、テストステロン値を抑制する成分としては、プロゲスチンの方が重要である事が判明した。つまり、COCのプロゲスチン成分は、女性の排卵を抑制する主な役割を担っていると考えられる。20μg/日のEEと10mg/日のメチルテストステロン(英語版)の組み合わせは、男性のFSH分泌を精子形成を停止するのに充分な程度まで抑制することが明らかになった。女性を対象とした研究では、閉経後の女性において、50μg/日のEEがLHおよびFSHレベルをともに約70%抑制する事が知られている。 EEは、抗性腺刺激ホルモン作用に加えて、高濃度では副腎によるアンドロゲン産生を著しく抑制する。ある研究では、トランスジェンダー女性に100μg/日の高用量のEEを投与したところ、循環血中の副腎性アンドロゲンレベルが27〜48%抑制されたという。この事から、エストロゲンによるアンドロゲンレベルの抑制の増強にEEが寄与していると考えられる。
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