把り凍て飛び降りるにも翼なし
作 者 |
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季 語 |
凍る |
季 節 |
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出 典 |
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前 書 |
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評 言 |
映画やドラマなどの駅裏のシーンを思い浮かべていただきたい。刑事物なら、飲み屋の女将への聞き込みの場面。熱愛物なら、駈け落ちの相手と決断を下す喫茶の場面。背後には繰り返しSLが入換作業を行う操車場の音があった。このような人生の悲哀を感じさせる場面には操車場の音は打って付けであった。鈴木六林男は自分のテリトリー内の吹田操車場へ取材に出掛けた。私の知っている操車場の作業は貨車を機関車で押し、加速をつけて、機関車だけブレーキを掛け止める。連結器の解いてある貨車は突き放されて惰力で進み、ポイントで進路を分けられ、北海道・九州といった、それぞれの行き先ごとの貨物列車に組み込まれてゆく。このときの突き放された貨車には転轍手(てんてつしゅ)が飛び乗る。取っ手を両手で把(にぎ)り貨車にしがみつく。足でブレーキを掛け、ほどよいスピードで先に連結されている貨車にぶつけて連結をさせる。ぶつけるスピードがありすぎると脱線か破壊を起こしてしまう。ブレーキをかけすぎて直前で止めてしまっては連結は出来ない。「ガチャ、ガチャン」という衝撃がある位がちょうど良いらしい。衝撃を受ける直前に転轍手は貨車より飛び降りる。その場から転轍手は元の場所へとぼとぼと歩いて帰る。昼夜操業の操車場では転轍手の目がくらんで轢き殺されるので機関車はヘッドライトをつけなかったという。六林男は操車場のいたるところに墓があったと語っている。時間に縛られた危険な作業であった。国鉄が民営化され、二軸の黒い貨車は姿を消した。以後このような操車場の作業は無くなった筈である。 |
評 者 |
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備 考 |
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