戦争の悲しみ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/24 01:02 UTC 版)
バオ・ニンが小説を書き始めた1980年代後半のベトナムは、それまで社会主義リアリズム一辺倒だった文学にもドイモイの影響が及び、検閲も大幅に緩和され、現実をあるがままに表現しようという傾向が生まれたドイモイ文学の勃興期だった。バオ・ニンはまた、この先駆的な作家であるグエン・ゴックに強く影響を受けた。 『戦争の悲しみ』は、作者にも重なる経歴を持つ主人公キエンの、ベトナム戦争従軍時の悲惨な体験、及び戦後の生活についての断片的なエピソードを、フラッシュバックのように積み重ねて物語られる。個々のエピソードは、兵士としての記憶も、戦後になって小説を書き始めることなども含めて、作者自身の体験に基づいているが、全体にはフィクションとなっている。出版後にはインテリ層には好評を受けたが、人民軍将兵をありのままに描いたことに対する反発も受け、1992年の第2刷以降は再版されず、人民軍機関誌『クァンドニャザン』は1995年に「国民の愛国心を弱め、人民軍の名誉ある歴史に泥を塗る」といった批判を行った。各国で翻訳されるようになると、「『西部戦線異状なし』に匹敵する」『ザ・ニューヨーカー』誌)、「あの長期戦争がベトナムに残した深い悲しみと罪の傷痕を、またそのことについての米国人の無知を教えてくれる」(『ワシントン・ポスト』紙)など高い評価を得た。日本では1997年に翻訳・出版され、2008年に『池澤夏樹個人編集 世界文学全集』に改訳版が収録された。池澤は「戦争に関する文学である以上に悲しみについての文学である」、「ヴェトナム戦争が生んだいちばんいい作家がバオ・ニンである」と評している。
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