我宿蒔絵硯箱
主名称: | 我宿蒔絵硯箱 |
指定番号: | 2512 |
枝番: | 00 |
指定年月日: | 1987.06.06(昭和62.06.06) |
国宝重文区分: | 重要文化財 |
部門・種別: | 工芸品 |
ト書: | |
員数: | 1合 |
時代区分: | 室町 |
年代: | |
検索年代: | |
解説文: | 中世における蒔絵の硯箱や手箱の優品には、和歌や漢詩の歌心、歌枕、あるいは物語の一場面やそれに因む事物を意匠化した例が多く見られるが、本硯箱も「我宿」の銘があるごとくその一例である。 入角【いりすみ】、被蓋【かぶせぶた】造りの蓋表には、洲浜上に籬に菊、流水中には鴛鴦【おしどり】、空には蝶をあしらい、また岩には「我」「乃」の二文字を、研出【とぎだし】蒔絵に薄い高蒔絵をまじえて表わしている。また蓋裏には菊の折枝を三方に、身の見込みには四方に研出蒔絵で表わしている。 本硯箱における意匠の典拠は特定できないが、その図様や文字から、例えば「我が宿のきくのしら露けふことにいく世つもりて淵となるらん」(『元輔集』一四七)や、「我宿の菊の垣根におく霜のきえかへりてぞ恋しかりける」(『古今和歌集』巻十二、紀友則)等の「我宿の」で始まる歌心を表わしたと考えられる。 甲盛り高く胴張りの強い形姿、蓋表の空間をあまり残さず全面に大きく図様を表わしたり、四隅に整然と配する身の内の菊枝の構成、単弁の菊花、肉の薄い高蒔絵など、あたかも鎌倉時代的な古様さが認められる。 しかしながら、菊枝や流水の固い描線、蓋裏の菊枝を三方に配する構成、かなり細かく整えられた蒔絵粉などを勘案すれば、室町時代前期頃の作と考えられる。 ともあれ、近世以前では類例の少ない入角形で、しかも横長の硯箱であると共に、張りのある優美な形姿や巧みな意匠構成を示す中世硯箱として貴重である。 |
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