患者に対する神経心理学的研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/11 19:28 UTC 版)
「眼窩前頭皮質」の記事における「患者に対する神経心理学的研究」の解説
ロールズ (Rolls) らは、逆転学習 (reversal learning) と消去 (extinction) の2種類の視覚弁別課題 (visual discrimination test)を行った。まず、逆転学習では実験参加者に A と B の2つの写真を見せ、写真 A が呈示された時にボタンを押すと報酬を得ることが出来、写真 B が呈示されている時にボタンを押すと罰が与えられることを学ばせる。この課題では、このルールの学習が終わった後にルールが入れ替えられる。つまり、写真 B が呈示されている時にボタンを押せば正解となるようにする。ほとんどの健常者は即座にルールの逆転に気づくことが出来るが、眼窩前頭皮質に障害を負った患者は、罰を与えられるにもかかわらず、一度強化された元々のパターンに反応し続けてしまう。ロールズ (Rolls) らは、この行動パターンは被験者らがルールの逆転を理解したと報告している点で、特に不可解であると述べている。 2つめの課題として消去に関する課題を行った。この課題では、もう一度実験参加者に写真 B ではなく写真 A に対してボタンを押すように学習させる。しかし、今回はルールを逆転させるかわりに、ルールをまったく変えてしまう。今回はどちらの写真に対してボタンを押しても罰が与えられるようにしてしまうのだ。この課題に対する正しい選択はボタンをまったく押さないことである。しかし、眼窩前頭皮質の機能障害をもった患者は、それを行えば罰せられるにもかかわらず、ボタンを押したいという誘惑に逆らえない。 アイオワ・ギャンブリング課題 (Iowa gambling task) と呼ばれる、現実世界の意思決定を模倣した認知や情動の研究に広く使われる課題がある。実験参加者にはコンピュータ画面に4つの仮想的なカードのデッキが呈示される。彼らは毎回カードを選び、その裏に書かれた分のゲーム通貨を得る、または失う。この課題の目的は、出来るだけ多くのお金を得ることであり、参加者には意識的に考えながらではなく"直感"に従ってカードを選んでもらう。デッキの内の2つは"悪いデッキ"となっていて、長期的に見れば収支はマイナスになる。残りの2つのデッキは"良いデッキ"になっていて、長期的に見れば収支はプラスになる。多くの健常者は約40から50試行後には"良いデッキ"を選び続けるようになる。しかし、眼窩前頭皮質の機能障害を持った患者の場合、その選択が最終的に損であると分かっている場合も存在するにもかかわらず、"悪いデッキ"に保続 (Perseveration) し続ける。同時に行った電気皮膚反応 (galvanic skin response) の計測では、健常者が"悪いデッキ"を選択しようとする際のストレス反応は、たった10試行後という、意識的な"悪いデッキ"の判断が生じるはるか以前から計測される。しかしこの結果とは対照的に、眼窩前頭皮質の機能障害を持った患者では、この差し迫った罰に対する生理的な反応が観測されることはない。この実験を行ったベシャラ (Bechara) らは、このことをソマティック・マーカー仮説 (somatic markers hypothesis) の観点から説明している。アイオワ・ギャンブリング課題は現在、精神医学や神経学などの多くの研究に用いられていて、統合失調症や強迫性障害などの患者や健常者において、この課題を行っている際にどの脳領域が活動するかがfMRIを用いて調べられている。 社会的失言検出課題 (Faux pas test) は誰かが不適切な発言をした際の社会的状況を用いた課題である。参加者が行う課題は、どの発言が不適切なのか?、なぜその発言が不適切なのか?、その社会的失言に対して人々がどのような反応をするか?、そして対照群として、この状況の事実に関する質問に答えることである。元々は自閉症スペクトラムのある人々のために作られたものだったが、この課題は眼窩前頭皮質の機能障害を持ち、物語は完全に理解できるものの社会的に不適切な出来事を判断できなくなった患者に対しても検出力を示す。
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