射流と常流、限界水深
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/23 07:35 UTC 版)
図4: 比エネルギー・水深曲線 h {\displaystyle h} - 水深 H 0 {\displaystyle H_{0}} (赤線) - 比エネルギー h 1 , h 2 {\displaystyle h_{1},h_{2}} - 常流水深、射流水深 h c {\displaystyle h_{c}} - 限界水深 H c {\displaystyle H_{c}} - 限界(最小)比エネルギー supercritical flow(青色の領域) - 射流 subcritical flow(緑色の領域) - 常流 図5: 流量・水深曲線 h {\displaystyle h} - 水深 Q {\displaystyle Q} (赤線) - 流量 H 0 {\displaystyle H_{0}} - 比エネルギー h 1 , h 2 {\displaystyle h_{1},h_{2}} - 常流水深、射流水深 h c {\displaystyle h_{c}} - 限界水深 Q c {\displaystyle Q_{c}} - 限界(最大)流量 supercritical flow(青色の領域) - 射流 subcritical flow(緑色の領域) - 常流 比エネルギーと比力は水深 h {\displaystyle h} に関して三次関数であり、これらが保存される場合は水深が2つの正の実根を持つこととなる。つまり、同じ大きさのエネルギーを持つ流れに対してとりうる水深が2つ存在することになり、小さいほうの水深を射流水深(supercritical depth)、大きいほうの水深を常流水深(subcritical depth)といい、両者の関係を交代水深関係(alternative depth)という。このような現象は管路にはなく開水路に特有の現象である。 同じ比エネルギーに対して水深が2つ存在するということは、ロルの定理よりその間に極値をとりうる点が存在する。図4を見ると分かる通りある水深において比エネルギーは最小となり、常流水深と射流水深が一致する。この水深を限界水深(critical depth)といい、このときの流れを限界流(critical flow)と呼ぶ。つまり、エネルギーを最小で水を流すためには水深を限界水深と一致させればよく、これをベスの定理という。 この限界水深は比エネルギーを水深で微分して、その微分係数が0となる点で求めることができ(最小比エネルギーの原理)、流量 Q {\displaystyle Q} が流れている幅 B {\displaystyle B} の長方形断面開水路の場合 h c = Q 2 g B 2 3 {\displaystyle h_{c}={\sqrt[{3}]{\frac {Q^{2}}{gB^{2}}}}} となり、限界水深は流量の2/3乗に比例する。また、その比エネルギー(限界比エネルギー)は、 H c = 3 2 h c {\displaystyle H_{c}={\frac {3}{2}}h_{c}} となり、限界水深は限界比エネルギーの2/3となって、速度水頭(≒運動エネルギー)がピエゾ水頭(水深≒位置エネルギー)の半分になることが分かる。 限界流の時の流速は限界流速(critical velocity)と呼ばれ、その大きさは長波の伝播速度と等しくなりフルード数がちょうど1となる。そして、フルード数が1より小さい流れを常流(subcritical flow)といい、フルード数が1より大きい場合を射流(supercritical flow)という。これから、流速が長波の伝播速度より大きい射流の場合は水面波が上流に伝播せず下流にしか伝わらないことが分かる(微小かく乱波も参照)。 射流の場合、流速が「射るように」速くなるため、橋脚等に作用する流体力が大きくなったり、河床せん断力が強くなり洗掘されやすくなるため危険である。そのため、普通の河川では常流水深となるように水深を調整して水を流すのでその時が「通常の流れ」であり、これが常流という用語の由来である(英語でも常流をnormal flowということがある)。 以上は流量を一定として比エネルギーが水深によって変化する場合の考察であるが、逆に比エネルギーを一定として流量を変化させる場合も考えられる。その時、流量 Q {\displaystyle Q} は Q = b h 2 g ( H 0 − h ) {\displaystyle Q=bh{\sqrt {2g(H_{0}-h)}}} となり、グラフは図5のようになって流量はある水深で最大となることが分かる。この時の水深を計算すると、上記「流量一定」の時の限界水深と一致する。つまり、比エネルギーが一定の時、限界水深において流量が最大になり、これを最大流量の原理(あるいはベランジェの定理)という。 また、後述の漸変流近似で述べるとおり、不等流の時、限界水深において水面勾配が(計算上)無限大となる(ブレスの定義)。さらに、跳水で述べる特性も追加した、常流・射流・限界流のそれぞれの特性をまとめたものが表1である。 表1: 常流・射流・限界流の特性特性常流限界流射流フルード数<1 1 1< 水深(ピエゾ水頭) h > h c {\displaystyle h>h_{c}} h c = Q 2 g B 2 3 {\displaystyle h_{c}={\sqrt[{3}]{\frac {Q^{2}}{gB^{2}}}}} h c > h {\displaystyle h_{c}>h} 平均流速 v > v c {\displaystyle v>v_{c}} v c = g h c {\displaystyle v_{c}={\sqrt {gh_{c}}}} 長波の伝播速度 v c > v {\displaystyle v_{c}>v} 比エネルギー H 0 > H c {\displaystyle H_{0}>H_{c}} H c = 3 2 h c {\displaystyle H_{c}={\frac {3}{2}}h_{c}} 最小(ベスの定理) H c < H 0 {\displaystyle H_{c}<H_{0}} 流量 Q < Q c {\displaystyle Q
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