墜落に至る飛行特性の変化
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/21 16:49 UTC 版)
「アメリカン航空191便墜落事故」の記事における「墜落に至る飛行特性の変化」の解説
以上の損傷の積み重ねで、次のような飛行状態となった。まず、左外側のスラットだけが引き込まれてしまったことによって、左翼だけ揚力が減少し、左翼が失速する速度が上昇した。すなわち、左翼だけが高い速度で失速しやすい状態となった。事故機の空気力学特性と操縦性はパイロットの意図しない状態となった。 事故機は、航空会社が規定したエンジン停止時の手順に従って飛行していた。機長席のフライト・ディレクターが機能停止していたことから、副操縦士が操縦を担当していたと推察されている。副操縦士は、フライト・ディレクターの指示に従いピッチ姿勢(機首上げ角)を維持した。この操縦は、航空機を安全離陸速度 (V2) まで減速することを意味した。そして、V2+6ノット (時速約11キロメートル)まで減速したとき、機体は左に傾き始めた。この時の速度は、159ノット (時速約294キロメートル) であり、スラットが引き込まれた左翼の失速速度であった。 コックピットから主翼とエンジンが目視できず、スラットの位置を示すシステムも停止していた。したがって、パイロットはスラットが引き込まれたこととそれによる飛行特性の変化を知ることはできなかった。電気系統の損傷により、失速警報装置とスラット不一致警告装置も機能しなかった。したがって、左翼の失速が始まった時、警告はほとんどまたは全くなかったと考えられている。失速すると、翼の周りの気流が剥離する。剥離した気流が後方の水平安定板に当たるとバフェッティングという振動を生じ、これは失速状態を知る手段の一つとなる。しかし、事故機の左内側のスラットは正常に伸展していたので、尾翼には剥離流が当たらなかった。さらに、フライトデータレコーダによると、当時若干の気流の乱れがあり、バフェッティングをわかりにくくしたとも推察されている。 機体が左に傾き始めた速度は、V2プラス6ノット (時速11キロメートル) であり「運航乗務員は機体の失速速度より充分大きいと信じていた」と推測されている。事故調査報告書は「乗員が左への傾き(ロール)が失速によるとは認識しておらず、混乱させた。なぜならスティック・シェイカーが作動していなかったからである」と述べている。
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