国際的な著作物の準拠法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/28 15:11 UTC 版)
「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の記事における「国際的な著作物の準拠法」の解説
国際的に流通する著作物をどの国の著作権法で保護するかについては、複数の学説が少なくとも20世紀前半から存在しており、21世紀に入ってからも議論は続いている。 例えば、共にベルヌ条約加盟国であるドイツと日本を例にとると、ドイツ人作家の小説が日本で販売されれば日本の著作権法で保護し、逆に日本人作家のマンガがドイツで販売されればドイツの著作権法で保護される。これは、ベルヌ条約5条 (2) で「保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる」と規定されてからである。つまり、著作物の利用が著作権侵害になるか否か、著作権保護の方法などに関する準拠法(著作権の準拠法)は、著作物の「利用行為地」によると理解される。この原則は属地主義と呼ばれているが、インターネットなどの普及により、何をもって利用行為地とみなすか曖昧さが生じていることから、伝統的なベルヌ条約上で解釈される属地主義と、新技術に対応したTRIPS協定などの属地主義が同じ前提条件なのか、疑問が呈されている。 この利用行為地の定義問題に加えて、著作権ならではの難しさが存在する。方式主義を採用している特許権の場合は、1つの発明であっても、各国でそれぞれ特許申請して個別に保護される。そのため、特許を認めた国の法律に準拠して特許侵害を裁くこととなり、比較的シンプルである。ところが著作権は特許権などとは異なり、ベルヌ条約で無方式主義を採用していることから、どこかの国に著作物を登録せずとも著作権が自然発生し、国際的な著作権侵害が生じた際にどの国の著作権法で裁くかが問題になる。 これについては、日本の判例によると登録国法ないし保護国法を採用しており、またベルヌ条約第5条 (2) の規定から、学説では保護国法が支持されている。ところがこの「保護国法」をどのように解釈するかで学説が分かれている。保護国法と法廷地法を同一視する説と、区別する説である。法廷地法とは、著作権者が著作権侵害に遭った場合、どこの国の裁判所に提訴したかで準拠する国の法律を決める考え方である。しかし、著作権者の国籍・住所・実際の居住地など別要素も考慮すべきであり、ベルヌ条約第5条 (2) の文言から単純に、保護国法や法廷地法を導き出すことに対し、理論的な弱さも指摘されている。 また裁判を通じて、侵害行為に対して差止請求や損害賠償を求めていくことになるが、これが国をまたいでいる場合、ある国の裁判所がどこまで差止や賠償を命じることができるのかも問題となり、様々な学説が存在する。
※この「国際的な著作物の準拠法」の解説は、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の解説の一部です。
「国際的な著作物の準拠法」を含む「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の記事については、「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約」の概要を参照ください。
- 国際的な著作物の準拠法のページへのリンク