収束・退化・収束先
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/19 09:14 UTC 版)
「スペクトル系列」の記事における「収束・退化・収束先」の解説
一番はじめに議論した最も簡単な例(鎖複体のスペクトル系列)では、1以上の r に対してスペクトル系列は停止した。このような状況ではシートの列の極限というものを合理的に考えることができる。0番目のシートの後には何も起こらないので、極限のシート E∞ とは E1 と思えば良い。 一般的な状況でも、シートの極限が存在することが多く、そして常に興味深いものになっている。この点が、スペクトル系列が強力な計算手法である理由の1つである。スペクトル系列 E r p , q {\displaystyle E_{r}^{p,q}} が E ∞ p , q {\displaystyle E_{\infty }^{p,q}} に収束する、あるいは近づいていく(abuts to)[訳語疑問点]とは、ある r(p, q) が存在して、全ての r ≥ r(p, q) に対し微分 d r p − r , q + r − 1 {\displaystyle d_{r}^{p-r,q+r-1}} と d r p , q {\displaystyle d_{r}^{p,q}} が零写像になっていることを言う。このとき、大きな r に対して必然的に E r p , q {\displaystyle E_{r}^{p,q}} は E ∞ p , q {\displaystyle E_{\infty }^{p,q}} と同型である。このような状況を E r p , q ⇒ p E ∞ p , q {\displaystyle E_{r}^{p,q}\Rightarrow _{p}E_{\infty }^{p,q}} という記号で表す。この p はフィルトレーションの添字を表現している。この表記法を使うとき、矢印の左側には、ほとんどのスペクトル系列で最も意味のある項 E 2 p , q {\displaystyle E_{2}^{p,q}} を書くことが多く、また右側は収束先(abutment)[訳語疑問点]と呼ばれる。 ほとんどのスペクトル系列において、 E ∞ {\displaystyle E_{\infty }} 項は自然には2重次数つきの対象にはなっていない。その代わり、 E ∞ n {\displaystyle E_{\infty }^{n}} 項には自然なフィルトレーション F ∙ E ∞ n {\displaystyle F^{\bullet }E_{\infty }^{n}} があることが多い。この状況では、 E ∞ p , q = gr p E ∞ p + q = F p E ∞ p + q / F p + 1 E ∞ p + q {\displaystyle E_{\infty }^{p,q}={\mbox{gr}}_{p}E_{\infty }^{p+q}=F^{p}E_{\infty }^{p+q}/F^{p+1}E_{\infty }^{p+q}} とセットする。この場合でも収束を先ほどと同様に定義するが、この場合には E r p , q ⇒ p E ∞ n {\displaystyle E_{r}^{p,q}\Rightarrow _{p}E_{\infty }^{n}} と表記し、これで p + q = n の場合には E r p , q {\displaystyle E_{r}^{p,q}} が E ∞ p , q {\displaystyle E_{\infty }^{p,q}} に収束していることを意味するものとする。 収束を決定できる最も簡単な状況は、スペクトル系列が退化するときである。スペクトル系列がシート r で退化するとは、任意の s ≥ r に対して微分 ds が零写像であることを言う。これは Er ≅ Er+1 ≅ Er+2 ≅ ... であることを意味する。特に、Er は E∞ と同型になる。これは、最初にあげたフィルター無しの鎖複体の自明な例(鎖複体のスペクトル系列)で起きてたことである。あのスペクトル系列は1番目のシートで退化した。一般に、2重次数つきのスペクトル系列は、水平もしくは垂直な帯状領城の外でゼロならば退化する。先の方のシートでは、微分はその帯状領域の外の対象に対しての射か、もしくは外の対象からの射になるからである。 また、ある p0 未満の全ての p と、ある q0 未満の全ての q に対して E r p , q {\displaystyle E_{r}^{p,q}} が消えているなら、スペクトル系列は収束する。p0 と q0 を0で取ることができるとき、第1象限スペクトル系列(first-quadrant spectral sequence)と呼ばれる。対象の、ゼロでない領域の境界からの距離は一定であることから、このようなスペクトル系列が収束することが分かる。結果的に、p と q を固定すると、後の方のシートでは微分は常に E r p , q {\displaystyle E_{r}^{p,q}} からゼロ対象への写像であるか、もくはゼロ対象から来る写像になる。より視覚的に、微分は項がゼロではない象限を去っていく、と言ってもいい。ただし、微分が全て同時にゼロにならないこともあるので、このスペクトル系列は必ずしも退化しない。同様に、ある p0 より大きい全ての p と、ある q0 より大きい全ての q に対して E r p , q {\displaystyle E_{r}^{p,q}} が消えているなら、そのスペクトル系列は収束する。 スペクトル系列の5項完全系列(英語版)は、ある低次数の項と E∞ の項を関係付ける。 次の文献も参照のこと:ボードマン、Conditionally Convergent Spectral Sequences
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