前借金相殺の禁止
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/17 07:52 UTC 版)
(前借金相殺の禁止) 第17条 使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。 「前借金」とは、労働することを条件として使用者からお金を借り、将来、賃金により弁済することを約束した金銭をいう。金銭貸借関係と労働関係とを完全に分離し、金銭貸借関係に基づく身分的拘束を防止することが第17条の趣旨である。従って、労働者が使用者から人的信用に基づいて受ける金融、弁済期の繰上げ等で明らかに身分的拘束を伴わないものは、労働することを条件とする債権には含まれない(昭和22年9月13日発基17号)。なお、第17条が禁止したのは、「前借金についての使用者の債権(前貸債権)で賃金に対する労働者の債権(賃金債権)を相殺すること」であるから、前借金を渡すこと自体が禁じられているわけではない(東京高判昭48.11.21)。 使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸し付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においては、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、第17条は適用されない(昭和23年10月15日基発1510号)。労使合意による相殺の具体例としては、住宅ローンに関してなされた合意相殺につき、労働者の自由意思に基づくものと認められるような場合には、適法であると判断した最高裁判決がある(日新製鋼事件、最判平2.11.26)。 事業主が育児休業期間中に社会保険料の被保険者負担分を立替え、復職後に賃金から控除する制度は、著しい高金利が付される等により、その貸付が労働することを条件としている場合を除いて、一般的には第17条違反とはならない。ただし、この場合は、第24条1条但書(賃金控除協定、賃金の全額払いの原則とその例外)に基づき、労使協定が必要となる。また一定年限労働すれば、当該債務を免除する旨の取り扱いも第17条違反とはしない(平成3年12月20日基発712号)。 (相殺の制限) 船員法第35条 船舶所有者は、船員に対する債権と給料の支払の債務とを相殺してはならない。但し、相殺の額が給料の額の3分の1を超えないとき及び船員の犯罪行為に因る損害賠償の請求権を以てするときは、この限りでない。 船員法においては労働基準法とは趣旨の異なる規定が置かれている。
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