冠動脈疾患 (CHD) とコレステロール
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 21:45 UTC 版)
「コレステロール」の記事における「冠動脈疾患 (CHD) とコレステロール」の解説
コレステロールは、冠動脈疾患(狭心症・心筋梗塞等)の危険因子である。アメリカ心臓学会では心疾患リスクと血中総コレステロール値に関するガイドラインを提唱している。 Level (mg/dL)Level (mmol/L)解説< 200 < 5.2 心疾患リスクを低減させるのに望ましいレベル 200 – 239 5.2 – 6.2 境界領域 > 240 > 6.2 高リスク しかし、今日での臨床検査ではLDL(悪玉)とHDL(善玉)のコレステロール値を分けて測定する方法が通常であり、アメリカ心臓学会が提唱するような総コレステロール値だけを見る単純化された方法はいくぶん時代遅れである。後述のHPS試験計画などによれば、リポタンパク質を区別して測定し、望ましくはLDLレベルを100 mg/dL (2.6 mmol/L) 以下にすべきであり、高リスク患者ではさらに厳しく< 70 mg/dLにすべきであるとされている。 そして総コレステロールにおけるHDL量は他のコレステロール量と比べて5対1以下にすることで健康を維持するのに適当な値である。特に子供は成人とはHDLレベルが異なることに注意すべきであり、子供の平均的なHDLレベルは 35 mg/dLである。 米国で最近行われたヒトでの冠動脈疾患とそのリスク評価に関する、よく計画された無作為抽出評価であるHeart Protection Study (HPS) 試験計画やPROVE-IT試験計画、およびTNT試験計画により研究されてきた。 これらの試験計画はLDL低減によるHDL向上の効果や、LDL低減療法が血管内超音波カテーテルによるアテローム治療と同等以上かどうかを調査するものである。この試験結果では少数の症例でLDL低減したことが冠動脈疾患の進行を抑止したということが確認された。しかしリポタンパク質の構成比の異常が治療により成功しても、アテローム動脈硬化の治療の必要性が無くなった症例はごくわずかであった。 また脂質異常症治療薬のHMG-CoAリダクターゼ阻害剤(スタチン)の複数の臨床試験結果からも動脈硬化に対するリポタンパク質の影響が明らかになっている。まず、スタチンを投与するとリポタンパク質の分布を不健康型から循環器疾患の発生が低下するようなより健康な型へと変化させる。そして健常人であってもHDLを増やすように作用する。しかし心疾患が無かったり、心臓発作病歴の無いなどの無症状患者において、スタチンを投与してコレステロール値を低下させても、その後の経過において心疾患による死亡率を低減させる作用があるかどうかについて調査すると、その結果はスタチン治療しない場合と統計上の有意さは無いことが分かっている。 したがって現状の知見においては、動脈硬化を発症している患者については脂質異常症は明らかに症状を悪化させる因子である。しかし、低いコレステロールが冠動脈疾患や動脈硬化を改善するかどうかは明確になっていない。 それとは別に糖尿病を罹患している患者は、糖尿病による高血糖は血管内皮細胞を障害するし、耐糖能異常があると血糖が低くても高インスリン血症を引き起こすので血管内皮細胞に悪影響を及ぼす。したがって耐糖能異常があるとすでに動脈硬化、冠動脈疾患、脂肪肝のリスクを抱えていることになる。それゆえ、そのような患者や患者予備軍は脂質異常症については注意を払う必要がある。このように理由により、糖代謝と脂質代謝が同時平行的に複合的に異常を起こすメタボリックシンドロームが注目されている。
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