優先劣後構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/17 08:10 UTC 版)
同一の原資産を優先劣後構造に証券化すると、優先度の高い順に、シニア債、メザニン債、ジュニア債が発行される。原資産の価値が目減りしたとき、まず株式から損害を受ける。目減りがさらに多いときは、ジュニア債、メザニン債、シニア債にも順に被害が出る。ただし、この債権部分は先取特権との優先関係が問題となる。証券化の優先劣後構造は、企業金融だけでなく、一般の資産担保証券および信用リスク担保証券の発行に加え、不動産証券化でも採用されている。 これは証券化の経済的な技術といえるだろうが、具体的には、まず購入する債権が選別されていること、次に債権が集合されて破綻割合が統計的に予測されるものに性格を変えていることが注目される。そして、それに加えて内部的な信用補完(internal credit enhancement)として、超過担保(資産から生み出される収益の一部を支払いの担保として留保すること)などが、また外部的な信用補完(external credit enhancement)としては、損害保険会社による支払い保証や、格付け機関による信用格付けなどが加わり、証券化資産の安全性が高められている。そして債券を信用リスクの違いによって階層化し、投資家のリスク許容力に応じた債券が用意されていること(優先劣後構造という)も重要で、内部的信用補完ともいえる優先劣後構造の点も外部の投資家からみれば、安全性を高める仕組みである。 この優先劣後構造における劣後部分、つまりエクイティにあたる部分のリスクを誰が負担するか、誰が保有するかは証券化で注目される点である。このリスクをオリジネーター、つまり資産証券化を仕組む側が保有したままでは、証券化は徹底されていないともいえる。しかしリスクに見合った収益が設定されることで(これを証券の構造を階層化するという)、このリスクの高い部分についてもリスク負担を合理的に判断した第三者による投資が成立する(つまりリスクの第三者への転嫁は可能)と考えられる。 この場合のリスクはクレジットリスクである。このリスクをさらに別の投資家に転嫁する仕組みとしてクレジット・デフォルト・スワップ(CDS (credit default swap))がある。これはデフォルト時の債務支払いと、プレミアムとを交換するもので、支払い保証保険とよく似ている。問題は、CDSのリスクをいかに軽減するか、予測可能なものに変化させてゆくかである。そこで登場したのがSCDO(synthetic collateralised obligation)合成債務証券(あるいは合成担保債務証券)と呼ばれる証券である。CDSで払い込まれたプレミアムは、実際に偶発債務が生ずるまでは、安全な適格資産で運用され、偶発債務発生(イベントリスク)に備えるのだが、この仕掛けそのものを証券化し、第三者による投資を可能にする(つまりリスクを社会的に分散する)仕組みが合成債務証券なのである。 劣後部分はそのリスクの高さゆえに市場で余剰となるようにも思われるが、実際には市場構造が一定の歯止めをかけている。オリジネーターとしての銀行は、BIS規制対策として証券化を利用している。バランスシートで保有している貸出債券を証券化するとき、劣後部分はオリジネーターである銀行が保有するのが普通である。また、自己資本のさらなる活用と株主資本利益率向上を目的としても、銀行は証券化を活用している。
※この「優先劣後構造」の解説は、「証券化」の解説の一部です。
「優先劣後構造」を含む「証券化」の記事については、「証券化」の概要を参照ください。
- 優先劣後構造のページへのリンク