債権者への支払・引渡し
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/31 15:15 UTC 版)
「債権者代位権」の記事における「債権者への支払・引渡し」の解説
債権者は、被代位権利を行使する場合において、被代位権利が金銭の支払又は動産の引渡しを目的とするものであるときは、相手方に対し、その支払又は引渡しを自己に対してすることを求めることができる。この場合において、相手方が債権者に対してその支払又は引渡しをしたときは、被代位権利は、これによって消滅する(423条の3)。 上の例で、AはCに対して1,000万円の支払を請求できるにしても、Cは誰に1,000万円を支払えば良いのか。Aが行使するのはあくまでBの権利に基づくものであるから、CはBに支払うべきともいえる。しかし債権者代位権が行使される場合というのは債務者が協力的でないのが常であるから、Bが1,000万円の受取を拒否することも十分あり得る。すると、債権者代位権制度の意味がなくなってしまう。そこで判例は、CはAに直接支払ってもよいとしていた。2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)でこの判例法理(大審院昭和10年3月12日判決民集14巻482頁、最高裁判所昭和29年9月24日第二小法廷判決民集8巻9号1658頁)が明文化された。 代位行使された債権もあくまで債務者の債権であるから、受領した金銭や物は代位行使された債権の債権者である債務者に返還しなければならない。これは、債権者代位権という制度の趣旨は債務者の責任財産を保全することであるから、その代位行使の結果は全債権者の利益にならなくてはならないからである。しかし、債務者は債権者代位権を行使した債権者に対して被保全債務を負担しているため、債権者が両債権を相殺できるとされている。上述の例で、Cから1,000万円を受け取ったAはその1,000万円を債務者Bに返還すべき債務を負うが、Bに1,000万円を返還すべきという債務とBに対して有している1,000万円の債権を相殺してしまうことが出来る。これは事実上、一般債権者であるはずのAに優先弁済を認める結論となる。 2017年民法改正の債権関係部会の審議の過程で、債権者が受領した金銭の返還債務と被保全債務との相殺による事実上の優先弁済を禁止する規定の新設が提案されていたが、最終的に見送られた。債権者代位権による債権回収は債務名義を取得しての強制執行では費用倒れになるような場面で強制執行制度を補完していることが理由となっている。 ただし、2017年改正の民法(2020年4月1日法律施行)は債権者への直接の支払いによる債権回収に一定の影響を及ぼす可能性が指摘されている。 以前の判例の立場とは異なり、債務者は自ら権利行使することができ、第三債務者が債務者に対してした弁済(債務者の第三債務者からの履行の受領)も有効であることが明文化された(423条の5)。 債権者が被代位権利の行使に係る訴えを提起したときは、債務者への訴訟告知が義務付けられ(423条の6)、債務者が訴訟参加することにより、債権者が直接の支払いを受けられない可能性がある。
※この「債権者への支払・引渡し」の解説は、「債権者代位権」の解説の一部です。
「債権者への支払・引渡し」を含む「債権者代位権」の記事については、「債権者代位権」の概要を参照ください。
- 債権者への支払・引渡しのページへのリンク