侵害警告
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/07/16 05:16 UTC 版)
特許権侵害訴訟を提起する前に特許権者が被告とすべき者に対して特許権侵害行為の存在を通知する(侵害警告)必要はないとするのが、立法例の大勢である。ただし、実務上極めて重要な例外として、侵害警告があったことが損害賠償請求権の発生要件となる場合があるとするアメリカ合衆国連邦特許法287条(a)の例がある。また、日本や大韓民国(ただし2006年10月1日の制度改正前のもの)の実用新案制度のように、技術的側面に関する実体審査をせずに技術的思想独占権を設定する制度の下では、侵害警告があったことがその権利に基づく侵害訴訟で勝訴するための要件とされることがある。 もっとも、侵害警告には、上記のような法律上の要件としての意義とは別に、戦略的な意義もある。すなわち、特許権侵害訴訟の審理の主導権を握り、自己に有利な判決又は和解条項を迅速に得るには、争点の正確な予測とこれに基づく十分な事前準備とが不可欠である。そのためには、侵害警告を発する特許権者も、これに対する回答書を発する侵害行為者も、具体的な根拠に基づく主張の応酬を展開し、相手方の真意(狙いは競業者の放逐なのか、金銭的利益なのか、相互実施許諾(クロスライセンス)なのか)、論拠の強弱、証拠収集の進展度合いといった、相手方の手の内を探っておくことが有益な場合が多い。 その反面で、欧州特許条約締約国内の侵害行為者に対して侵害警告を発する場合には注意を要する。欧州内での特許権は各国ごと確立される。これは、各国の特許庁で直接審査された出願でも欧州特許庁で許可された出願でも同様である(欧州特許庁で許可された特許は国内特許の束であり、欧州特許条約加盟国へ個別に登録手続き(Validation)を行わなければ権利として確立しない。どの国で登録するかは権利者が選択できる)。従って、侵害行為の争いは各国の特許権に基づいて当該国内での民事事件となる(属地主義)。しかし、侵害行為者側の魚雷(英語でtorpedo)戦略、すなわち、他の加盟国で当該特許の非侵害確認訴訟を提訴されると二重起訴を理由に、本訴が訴訟手続中断(stay)される危険性がある。魚雷戦略は訴権の濫用にあたると解釈されてはいるが、その旨の判決を得るまでに長期間を要することもあり得るので、特許権者は警戒を要する。トルピード戦略は、訴訟手続きが遅い・長期間になるとされるイタリアで非侵害確認訴訟を提訴されることが多く、“Italian Torpedo”としてよく知られている。
※この「侵害警告」の解説は、「特許権侵害訴訟」の解説の一部です。
「侵害警告」を含む「特許権侵害訴訟」の記事については、「特許権侵害訴訟」の概要を参照ください。
- 侵害警告のページへのリンク